2024年度 世界を知る:ヨーロッパ 2   Area Studies: Europe 2

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開講元
文系教養科目
担当教員名
久保 佑馬 
授業形態
講義     
メディア利用科目
曜日・時限(講義室)
-
クラス
2
科目コード
LAH.A501
単位数
1
開講年度
2024年度
開講クォーター
3Q
シラバス更新日
2024年3月18日
講義資料更新日
-
使用言語
日本語
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講義の概要とねらい

本講義では、西洋ルネサンス期(15~16世紀ごろ)の美術について学び、近代ヨーロッパの源流ともいえるこの時代の文化について、理解を深めていただきます。
皆さんは「ルネサンス」という言葉を聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか?
「ルネサンス」とは、もともと「再生」を意味するフランス語で、古代ギリシャやローマの優れた文化を復興しようという、当時の文化運動を総称した言葉です。2世紀あまり、芸術家たちは古代の文化を蘇らせようと切磋琢磨し、遠近法や油彩画といった新しい技法を導入しながら、革新的な作品を次々と生み出しました。
しかし一方、この時代はまだ中世以来の伝統的な価値観が支配的で、近現代のように、芸術家たちが自由に自己表現を行う環境が整っていたわけではありませんでした。有力者の肖像を除けば、作品の主題はキリスト教、あるいは当時流行していた古代神話が大部分で、芸術家たちは教会、王侯貴族、商人たちから注文を受け、初めて作品制作に取り掛かりました。彼らは10代半ばごろ、町の有力な芸術家に弟子入りし、工房で下働きをしながら修練を積み、やがては独立し、自らも工房を構えるようになると、かつての自分のような若者たちを雇い入れ、集団で芸術作品を仕上げるのでした。こうして都市ごとの芸術様式が世代を超えて伝承され、地域文化の伝統は保たれました。
つまりこの時代の芸術家たちは、中世以来の職人的環境の中で育ち、社会の側も、芸術家に自由な自己表現を求めていたわけではありませんでした。それにもかかわらず、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロのような天才たちは、その伝統的な価値観にあえて挑戦し、それぞれのやり方で個性を発揮しつつ、古代文化を超越する新たな芸術を創り出そうとしました。周囲の期待をはるかに超えて、過去の偉大な芸術家たちと競いながら、新たな文化を生み出す——その非凡な精神があったからこそ、彼らの作品には力強いエネルギーがみなぎり、500年の時を経た今日でも、我々に強い感銘を与え続けているのでしょう。
ルネサンス美術は、そうした価値観の変革期が生み出した、芸術家たちの努力と創造性の結晶です。絵画、彫刻、建築の分野を問わず、全7回でなるべく多くの作品、芸術家についてお話します。美術にあまり馴染みがないという方も、履修を歓迎いたします。
なお、1Qの「世界を知る:ヨーロッパ【1】」と、3Qの「世界を知る:ヨーロッパ【2】」は同一内容です。

到達目標

— 西洋ルネサンス期の美術史について概要を理解し、社会における美術の役割が、我々の生きる近現代とどのように異なっていたか、具体例に即して考察できるようになる
— ルネサンス美術で頻繁に登場するキリスト教主題に関し、十分な知識を身につけ、作品鑑賞の場で役立てられるようになる
— 時代が進むにつれ、芸術家たちが積極的な自己表現を行うようになった歴史的展開を学び、ルネサンス文化の中に、近現代文明の源流が見いだせないか、具体例に即して考察する

キーワード

ヨーロッパ、ルネサンス、バロック、近世、美術、芸術

学生が身につける力(ディグリー・ポリシー)

専門力 教養力 コミュニケーション力 展開力(探究力又は設定力) 展開力(実践力又は解決力)

授業の進め方

大教室での講義形式ですので、毎回の授業で必ず発言しなければならないということはありません。代わりに、全7回中3回程度、簡単なコメント課題を出しますので、そちらで授業へのリアクションやコメントをお願いします。T2SCHOLAからご回答ください。
授業中に疑問点や作品の感想など、気になったことはいつでも自由に発言してください。大教室ではありますが、もし自発的なご発言がある場合は、私がマイクを回しに行きます。意見や感想を共有しあうのは、美術鑑賞の醍醐味です。ぜひ皆さん積極的にご発言ください。
なるべく各回授業の前日までに、T2SCHOLAにパワーポイント資料をアップロードします。パワーポイント資料は、教室でもスクリーンに映しながら授業しますが、手元のPC等で作品画像を鑑賞しながら受講したい場合は、アップロードしたパワーポイント資料を活用ください。PC等を持参しなくても、もちろん受講に支障はありません。
予習・復習の際には、以下に挙げる参考書のほかに、T2SCHOLAへアップロードされている上記パワーポイント資料も活用ください。

授業計画・課題

  授業計画 課題
第1回 ルネサンス美術の世界:レオナルド・ダ・ヴィンチを例に レオナルド・ダ・ヴィンチを例に、ルネサンス美術の世界を紹介します。この時代の美術の在り方が、私たちの生きる近現代とどう異なっていたか考察してください。
第2回 ルネサンスの幕開け:15世紀前半のフィレンツェ美術 ブルネッレスキ、ドナテッロ、マザッチョを中心に、15世紀前半のフィレンツェで活躍した芸術家たちを紹介します。彼らの作品や成し遂げた成果が、後に続くルネサンス芸術家たちにどのような影響を与えたか考察してください。
第3回 イタリア・ルネサンスの展開:15世紀後半のイタリア美術 15世紀前半のフィレンツェでの展開を受け、15世紀後半のフィレンツェや北イタリアで、ルネサンス芸術がどのように花開いたか紹介します。ルネサンス期に再び注目されるようになった新プラトン主義思想について学び、ボッティチェッリなどの芸術家にどのような影響を与えたか考察してもらいます。
第4回 もうひとつのルネサンス:15世紀アルプス以北の美術 イタリアと時を同じくして、フランドル地方(今日のベルギー西部を中心とした地域)でも、それ以前の様式とは異なる写実性の高い美術が盛んに制作されました。「北方ルネサンス」と言われるその歴史的展開について学び、ネーデルラントとイタリアにおけるルネサンス芸術の共通点、相違点について考察してください。
第5回 ふたつのルネサンスの出会い:デューラーと16世紀アルプス以北の美術 異なる発展を見せたイタリア・ルネサンスと北方ルネサンスは、その後交流が始まり、互いに刺激しあいます。その美術交流がもたらした成功例として、デューラーの諸作品を紹介します。絵画に加えて、彼の版画作品も鑑賞し、木版と銅版など、制作技法の違いが作風にどう影響を与えたか考察してください。
第6回 盛期ルネサンス:レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ 一般にイタリア・ルネサンスは、16世紀初頭ごろに最盛期を迎えたとされます。いわゆるイタリア・ルネサンス三大巨匠、特にミケランジェロとラファエッロの諸作品について学び、彼らの作品において、それまでのルネサンス美術の成果がどのように生かされているか考察してください。
第7回 後期ルネサンス:マニエリスム、ヴェネツィア派の絵画 ラファエッロの死(1520年)後、ルネサンス芸術は、盛期ルネサンスの巨匠たちを模倣、ないし再解釈する作品が多くなったと概説されます。後世、そのマンネリ的傾向は「マニエリスム」と呼ばれましたが、その否定的評価が妥当であるか皆さん自身で考察してください。マニエリスムが隆盛を極めた中部イタリアとは異なり、ヴェネツィアでは、ティツィアーノを中心に色彩豊かな独自の絵画世界が花開きました。フィレンツェとヴェネツィアにおける美術の違いについても考察していただきます。

授業時間外学修(予習・復習等)

学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。

教科書

教科書は指定しません。講義資料、参考図書を積極的に読み返してください。

参考書、講義資料等

西洋美術史概説…エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』ファイドン、2011年(ポケット版)/河出書房新社、2019年(大型版). 小佐野重利、京谷啓徳、水野千依『西洋美術の歴史4ルネサンスI:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』中央公論新社、2016年. 秋山聰、小佐野重利、北澤洋子、小池寿子、小林典子『西洋美術の歴史5ルネサンスII:北方の覚醒、自意識と自然表現』中央公論新社、2017年. 大野芳材、中村俊春、宮下規久朗、望月典子『西洋美術の歴史617~18世紀:バロックからロココへ、華麗なる展開』中央公論新社、2016年. 高階秀爾、三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997年.
主題ジャンルに関して…ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監訳、河出書房新社、2021年. 三浦篤『まなざしのレッスン①西洋伝統絵画』東京大学出版会、2001年.
有名作品の評論、解説…ケネス・クラーク『絵画の見かた』高階秀爾訳、白水社、2003年. 高階秀爾『カラー版名画を見る眼Ⅰ』岩波書店、2023年. など
その他の関連図書は、授業中にご紹介します。

成績評価の基準及び方法

— 期末レポート:80%程度
西洋ルネサンス・バロック期(15~18世紀ごろ)の美術作品を1点ないし2~3点選び、4,000字程度で論述してください。2~3点の場合、相互に関連性のある作品を比較して論じてください。作品の感想を述べるだけでは十分とは言えませんが、作品周辺の客観的事実を羅列するばかりでも面白みがありません。ご自身がその作品について興味を持った点、美しいと感動した点を深く掘り下げたうえで、それを歴史的背景と関連付けて論じてくださるのが理想です。テーマ設定は自由ですが、いくつかの例は授業の中でご紹介します。
— コメント課題:20%程度
3回程度、簡単なコメント課題を設ける予定です。授業内容を踏まえたうえで、T2SCHOLAからご回答ください。提出状況を成績に加味いたします。コメント課題には、なるべく毎回フィードバックをお返しするようにいたします。興味深かったコメントは、授業内で紹介することもあります。

関連する科目

  • LAH.A502 : 世界を知る:東アジア
  • LAH.A503 : 世界を知る:中南米
  • LAH.A504 : 世界を知る:中東・アフリカ
  • LAH.A505 : 世界を知る:南・東南アジア
  • LAH.A506 : 世界を知る:北米・オセアニア
  • LAH.H102 : 芸術A
  • LAH.H202 : 芸術B
  • LAH.H302 : 芸術C

履修の条件(知識・技能・履修済科目等)

予備知識は特に必要としませんが、ヨーロッパの地理や歴史について不安のある方は、簡単に復習しておくと理解しやすいかもしれません。
教室での講義も大事ですが、美術館へ足を運んで、実際に作品を鑑賞するのも勉強になります。適宜、皆さん自身で美術展に行くようにしてください。

オフィスアワー

授業後は時間が空いておりますので、ご質問や感想などいつでもコメントをお待ちしております。メールでのご連絡も歓迎です。内容に関することでも、事務的なことでも、気軽にご質問、ご相談ください。

その他

この科目は、修士課程500番台の文系教養科目です。
東工大では、学士から博士後期課程まで継続的に教養科目を履修する「くさび型教育」を実践しています。番台順に履修することが推奨されており、修士課程入学直後の学期(4月入学者であれば1・2Q、9月入学者であれば3・4Q)に履修申告できる文系教養科目は400番台のみです。500番台文系教養科目は、入学半年してから(4月入学者であれば入学した年の3・4Qから、9月入学者であれば入学した翌年の1・2Qから)履修可能となります。

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