この講義では、ルネサンス期(15~16世紀ごろ)に制作された絵画、彫刻、建築作品を集中的に学び、ヨーロッパ文化への理解を深めていただきます。
「ルネサンス美術」と聞いて、皆さんはどのような芸術家を思い浮かべるでしょうか? 数々の美しい女神像を描いたボッティチェッリ、「芸術家」という枠では収まりきらない万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ、後世の絵画の規範にもなった聖母子像を描いたラファエッロ、あるいは、パトロンと衝突を繰り返しながらも、自らの信念を曲げず、英雄的な彫刻作品を彫り続けた不屈の芸術家ミケランジェロ――彼らは皆、今日でも人々の心を打つ感動的な作品を創造し続けた偉大な芸術家たちですが、ルネサンス美術の歴史は、そうした「巨匠」たち、あるいは、彼らの制作した有名作品だけで形作られたわけではありません。
「ルネサンス(Renaissance)」とは、「再生」を意味するフランス語で、古代ギリシャやローマの古典文化を復興しようという、一連の文化運動であったと聞いたことがあるかもしれません。もちろんその定義で間違いはないのですが、しかし、すべての芸術家や文化人たちが、古典文化の「再生」という目的意識のみを持って文化活動に携わっていたかというと、歴史はそう単純ではありませんでした。古代美術から採り入れた革新的な手法で人々を驚かし、「再生」どころか、新しい美術を生み出そうという独創的な芸術家もいた一方、むしろ一時代前の中世的な表現に目を向け直し、「再生」された古典文化と従来の中世文化をどのように融合すべきか、新旧のスタイルのはざまで知恵を絞る芸術家、文化人もいたのです。
ルネサンス期のヨーロッパは、未だ教会権力が強い時代でもありました。王侯貴族の肖像画は別として、芸術家たちの主たる仕事は、教会等のための宗教美術作品の制作で、作品には教会に相応しい厳粛さが求められた上、聖書のこの場面のキリストや聖人は、このように描かれなければならない、といった無数の約束事を踏まえなければなりませんでした。ルネサンスの芸術家たちは、近現代の画家たちのように自由に描きたいものを描くといったことが許されない文化の中で生き、いわばそうした制約を受け入れつつ、自分なりの表現を模索し、研ぎ澄まし、洗練させていったのでした。
この講義で語られるのは、人々が度重なる戦争にあえぎ、古い時代の権威が今日よりもずっと重要視されていたころのヨーロッパで起こった出来事です。しかしそうした時代にあっても、芸術家たちはみな多様性をはぐくみ合い、彼らの飽くなき探求心と創造力から生み出された美術作品は、ヨーロッパ文明を代表する芸術として永遠の普遍性を獲得したのでした。有名芸術家による有名作品の解説を読むだけでは、何とももったいないほど、そこには様々な物語、美術の宝庫があります。7回の授業で扱えるのは限られますが、その一部でもご紹介できればと思っています。予備知識の全くない方、美術に馴染みのない方の履修も歓迎します。
1) ヨーロッパの美術に興味を持つ。特に、ルネサンス、バロック期の美術と社会がどのようにかかわりあっていたか、自分なりに考察できるようになる。
2) 宗教主題や神話主題の内容をある程度把握できるようになる。近代以前の美術を取り巻く常識を理解する。
3) 主要な芸術家の有名作品について、その制作背景を知る。また、自分なりに興味を持った作品をどのように探求していくか、調べる指針を習得する。
ヨーロッパ、西洋、芸術、美術、美術史、歴史、ルネサンス、バロック、近世
✔ 専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
大教室での講義になるので、一人一人が必ず発言しなければいけないということはありませんが、作品の感想や質問など、気になることがあったら遠慮なく発言してください。
予習:必須というわけではありませんが、予習済みであれば、講義内容はよりスムーズに理解できるはずです。ゴンブリッチ『美術の物語』や、中央公論新社のシリーズなどで、時代の大まかな流れや概説を頭に入れておくと、理解が深まります。
復習:講義資料、パワポはT2SCHOLA等にアップロードするので、見返して復習してください。網羅的にすべてを探求するのは難しいとしても、講義を聞いて気になった芸術家や美術作品があれば、講義内で紹介した参考図書等を読み、その芸術家についてや、その作品に特徴的な技法や図像、時代背景等を突き詰めて調べてみてください。期末レポートの準備にもなります。
コメント課題:定期的にコメント課題を用意します。それほど難しいことを質問するわけではなく、簡単に、気軽に回答してもらえれば十分ですが、成績評価には加えることにします。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | ガイダンス、近世美術と近代美術の違い、主題ジャンルについて | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第2回 | 15世紀前半のフィレンツェ・ルネサンス美術:ブルネッレスキ、マザッチョ、ドナテッロ | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第3回 | 15世紀後半のイタリア・ルネサンス美術:ベアト・アンジェリコ、ボッティチェッリ、マンテーニャなど | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第4回 | アルプス以北のルネサンス美術:ヤン・ファン・エイク、ロヒール・ファン・デル・ウェイデン、デューラーなど | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第5回 | 16世紀イタリア・ルネサンスの巨匠たち:レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエッロ、ミケランジェロ | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第6回 | ヴェネツィア・ルネサンス絵画:ジョルジョーネ、ティツィアーノ、ティントレット | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第7回 | 17世紀ヨーロッパのバロック美術概説 | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
教科書自体は指定しませんが、講義資料、参考図書は積極的に読み返してください。
西洋美術史概説…エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』ファイドン、2011年(ポケット版)/河出書房新社、2019年(大型版). 小佐野重利、京谷啓徳、水野千依『西洋美術の歴史4ルネサンスI:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』中央公論新社、2016年. 秋山聰、小佐野重利、北澤洋子、小池寿子、小林典子『西洋美術の歴史5ルネサンスII:北方の覚醒、自意識と自然表現』中央公論新社、2017年. 大野芳材、中村俊春、宮下規久朗、望月典子『西洋美術の歴史617~18世紀:バロックからロココへ、華麗なる展開』中央公論新社、2016年. 高階秀爾、三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997年.
主題ジャンルに関して…ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監訳、河出書房新社、2021年. 三浦篤『まなざしのレッスン①西洋伝統絵画』東京大学出版会、2001年.
有名作品の評論、解説…ケネス・クラーク『絵画の見かた』高階秀爾訳、白水社、2003年. 高階秀爾『名画を見る眼』岩波書店、1969年. など
その他の関連図書は、講義内、講義資料でご紹介します。
基本は期末レポートによる評価です。ルネサンス、バロック期のヨーロッパ美術作品を1点選び、考察してもらいます。詳細は講義内でお知らせします(7~8割程度の配点)。その他、講義内で簡単なコメント課題を出しますので、そちらも評価対象になります(2~3割程度)。
予備知識は特に必要ありませんが、ヨーロッパの近世史や地理に関する簡単な知識は、知っていた方がいいかもしれません。自信のない方は、確認しておいてください。
この授業の実施日は、4/12(水),19(水),26(水)、5/10(水),17(水),24(水),31(水)の全7回です。
またこの科目は、修士課程500番台の文系教養科目です。
東工大では、学士から博士後期課程まで継続的に教養科目を履修する「くさび型教育」を実践しています。番台順に履修することが推奨されており、修士課程入学直後の学期(4月入学者であれば1・2Q、9月入学者であれば3・4Q)に履修申告できる文系教養科目は400番台のみです。500番台文系教養科目は、入学半年してから(4月入学者であれば入学した年の3・4Qから、9月入学者であれば入学した翌年の1・2Qから)履修可能となります。