本講義の主題は「交換システム史観」である。前半は、社会的ジレンマに陥る様々な問題状況、たとえば、万人の万人に対する闘争状態やフリーライダー問題などを説明するとともに、進化ゲーム理論や進化シミュレーションの分析手法を用いて、共同体、国家、市場等の制度の出現が、これらのジレンマの解決に関連することを理論的に明らかにする。後半は未来に目を向け、共同体・国家・市場を超える様々な共助のあり方を学生諸君と議論してゆく。
講義では、問題状況を数理モデルやプログラムで定式化し、同時に、モデルにこめられた社会科学的意味を吟味する形で、言説中心の社会理論にない新しい社会理論を示す。そして、新たに生まれつつある交換社会をシステム思考で洞察する力を涵養する。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1) 様々な交換(1:1の一般交換、1:Nの一般交換、限定交換)におけるジレンマの解決が、共同体、ネーション(国民)、ステーツ(国家)、市場、という制度の形成と関係していることが理解できる。
2) 制度の形成が数理的なモデルやプログラムを用いて記述できることが理解できる。
3) 過去を踏まえ、新しい社会の兆しに気づき、洞察することができる。
4) 計算社会科学(データサイエンス)によって、共助社会をシステム科学的にデザインできる可能性が理解できる。
✔ 該当する | 実務経験と講義内容との関連(又は実践的教育内容) |
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中井は、宇宙開発事業団と三菱総合研究所で20年間の実務経験を有しており、現実の社会のあり様と社会理論を対比させながら講義を進める。 |
一般交換、万人の万人に対する闘争状態、フリーライダー問題、内集団びいき、略奪国家、社会的ジレンマ、進化ゲーム理論、進化シミュレーション、共同体、ネーション(国民)、ステーツ(国家)、クラウドファンディング、計算社会科学、データサイエンス
✔ 専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
本講義のDAY1とDAY2では、社会科学的な解釈とモデルの構造を連携させることを重視し、被説明対象である社会・歴史現象を具体的に説明するとともに、これを説明する数理モデルやアルゴリズムを出来る限り簡単な数学を用いて説明する。DAY3では、現代社会の中に、共同体・国家・市場を超える交換社会の兆しを探し、未来社会を洞察してもらう。
本講義は、次の通り、対面にて集中講義の形式で行う。
(講義室:大岡山キャンパス)
2月13日(火):第1回《3-4限》、第2回《5-6限》
2月15日(木):第3回《3-4限》、第4回《5-6限》、第5回《7-8限》
2月16日(金):第6回《3-4限》、第7回《5-6限》、第8回《7-8限》
集中講義のため、3日間、すべての時間帯に出席することが履修の条件となる。
-----2023年12月26日追記
講義室:大岡山キャンパス西2号館W2-401
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 共同体・国家・市場と柄谷のX~交換システム史観~(中井) | 秩序形成が直面するジレンマを整理し、ソリューションとして共同体・国家・市場を考察する。 |
第2回 | 集団的直接互酬システム~共同体という現象~(中井) | 社会システム科学のモデルを使って現代社会を考察すると同時に、社会システム科学の射程を考察する。 |
第3回 | タグによる共助システム~ネーション(国民)という現象~(中井) | 社会システム科学のモデルを使って現代社会を考察すると同時に、社会システム科学の射程を考察する。 |
第4回 | 朝貢による防衛システム~ステーツ(国家)という現象~(中井) | 社会システム科学のモデルを使って現代社会を考察すると同時に、社会システム科学の射程を考察する。 |
第5回 | 市場と貨幣の創発~経済システムとマクロモデル~(岡田) | 社会システム科学のモデルを使って現代社会を考察すると同時に、社会システム科学の射程を考察する。 |
第6回 | 自律分散型社会の出現~計算社会科学の挑戦~(岡田・中井) | 共同体・国家・市場を超える交換社会の兆しと思われる事例を探し、将来性と課題を考察する。 |
第7回 | 柄谷のXを探す~未来洞察・グループワーク~(中井・岡田) | 調べた事例をグループで共有し、プレゼンテーション資料にまとめる。 |
第8回 | 未来洞察・プレゼンテーション(中井・岡田) | なし |
なし
講義資料はT2SCHOLAか授業中の配布により与える。
柄谷行人「世界史の構造」岩波書店
授業中のディスカッションへの参加が望まれる。また、DAY1とDAY2に対してレポートを提出してもらう。また、DAY3では、柄谷のXに当たる兆しを探し、それを基に、未来社会をグループで洞察・プレゼンテーションしてもらう。DAY1&2のレポート、DAY3のプレゼンテーションをそれぞれ、60%、40%の重みで統合して、総合評価する。ちなみに, いづれのレポートも, AIの不得意な「未知の課題発見や新しい解釈」を行う課題となるので, AIを優秀なアシスタントとして使って欲しい.(1/30更新)
社会や歴史に対する興味があることが望ましい。
中井 豊(なかい ゆたか)、nakai.yutaka0[at]gmail.com
岡田 勇(おかだ いさむ)、okada[at]soka.ac.jp
問合せをする際に、メールの件名には科⽬名、メールの本⽂には学籍番号と⽒名を⼊れてください。
当講義は理学の内容を含む。
※※※3日間とも、対面授業を行う。
この科目は、修士課程500番台の文系教養科目です。
東工大では、学士から博士後期課程まで継続的に教養科目を履修する「くさび型教育」を実践しています。番台順に履修することが推奨されており、修士課程入学直後の学期(4月入学者であれば1・2Q、9月入学者であれば3・4Q)に履修申告できる文系教養科目は400番台のみです。500番台文系教養科目は、入学半年してから(4月入学者であれば入学した年の3・4Qから、9月入学者であれば入学した翌年の1・2Qから)履修可能となります。