本講義では、ルネサンス、バロック期(15~17世紀)のヨーロッパ美術について概観しながら、芸術家あるいは芸術作品が社会とどのように関わりあってきたか、考察します。
芸術作品を見て、その美しさに感動する心は、洋の東西を問わず人類共通に備わったものでしょう。しかしどんな作品であろうと、それを生み出した時代や文化の約束事から無縁であるということは、めったにありません。たとえば近代以前のヨーロッパ絵画では、宗教画や神話画が主題ジャンルの上位にあり、それ以外のジャンル(風景画、静物画、風俗画など)ばかりを描く画家は、一流とは見なされませんでした。ジャンルのヒエラルキーがあったためです。そして宗教画を描くにも、聖書のこの場面はこのように描かれなければいけない、この聖人はあのように描かれなければならない、と、画家には守るべき約束事が数多くありました。まずはそうした約束事の概要を学び、芸術家たちがどのような時代環境に制約づけられていたか理解しましょう。
一方でルネサンス、バロック期は、芸術家が、手仕事的な仕事に従事する「職人」から、美を追求する自律的な「芸術家」という存在へ、社会の評価、芸術家の自意識も改められていった時代です。その変革は長い年月をかけてゆっくり進行し、その過程では様々なドラマがありました――芸術家は、王侯貴族や教会などの注文主の意図を先読みして作品を作ることもあれば、敢えて反抗し、社会の常識に挑戦を突きつけることもあったのです。そんなことができるのも芸術家の特権であり、芸術作品は時代、社会を映す鏡でもありました。7回の講義で紹介できる事例は限られますが、この時代のヨーロッパ美術に興味を持ち、皆さんの人生の教養の一つにしてもらうのが本講義のねらいです。"
1) ヨーロッパの美術に興味を持つ。特に、ルネサンス、バロック期の美術と社会がどのようにかかわりあっていたか、自分なりに考察できるようになる。
2) 宗教主題や神話主題の内容をある程度把握できるようになる。近代以前の美術を取り巻く常識を理解する。
3) 主要な芸術家の有名作品について、その制作背景を知る。また、自分なりに興味を持った作品をどのように探求していくか、調べる指針を習得する。
ヨーロッパ、美術、芸術、歴史、社会、ルネサンス、バロック
✔ 専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
(必要に応じて西洋史知識の事前確認→)講義動画の視聴→講義資料、参考図書を読み復習(→回によって小課題を送信)→期末課題へ向けた準備
授業では、メールやチャット等で随時質問を受け付ける。また毎回Googleフォーム等でコメントシートの提出を課し、必要があればT2SCHOLAで解答を共有するなど、学修状況の確認を行う。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | ガイダンス、近世美術と近代美術の違い、主題ジャンルについて | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第2回 | 宗教画・神話画の決まり、図像アトリビュート | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第3回 | 北方ルネサンス絵画(ネーデルラント、ドイツ) | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第4回 | 15世紀フィレンツェのルネサンス絵画 | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第5回 | 16世紀イタリア・ルネサンス美術の巨匠たち | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第6回 | ヴェネツィア派絵画、イタリアのバロック美術 | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
第7回 | ヨーロッパ各国のバロック美術 | 講義後、講義資料や参考図書を読み復習するようにしてください。 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
教科書自体は指定しませんが、講義資料、参考図書は積極的に読み返してください。
西洋美術史概説…エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』ファイドン、2011年(ポケット版)/河出書房新社、2019年(大型版). 小佐野重利、京谷啓徳、水野千依『西洋美術の歴史4ルネサンスI:百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』中央公論新社、2016年. 秋山聰、小佐野重利、北澤洋子、小池寿子、小林典子『西洋美術の歴史5ルネサンスII:北方の覚醒、自意識と自然表現』中央公論新社、2017年. 大野芳材、中村俊春、宮下規久朗、望月典子『西洋美術の歴史617~18世紀:バロックからロココへ、華麗なる展開』中央公論新社、2016年. 高階秀爾、三浦篤編『西洋美術史ハンドブック』新書館、1997年.
主題ジャンルに関して…ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監訳、河出書房新社、2021年. 三浦篤『まなざしのレッスン①西洋伝統絵画』東京大学出版会、2001年.
有名作品の評論、解説…ケネス・クラーク『絵画の見かた』高階秀爾訳、白水社、2003年. 高階秀爾『名画を見る眼』岩波書店、1969年. など
その他の関連図書は、講義内、講義資料でご紹介します。
基本は期末レポートによる評価です。ルネサンス、バロック期のヨーロッパ美術作品を1点選び、考察してもらいます。詳細は講義内でお知らせします(7~8割程度の配点)。その他、講義内で小さな課題を出す場合もあるので、その出来も評価対象になります(2~3割程度)。
なるべく前提知識は必要ないようお話しますが、最低限のヨーロッパの地理や近世史の知識は必須です。
あまり自信がないという方は、確認しておいてください。
この科目は、修士課程500番台の文系教養科目です。
東工大では、学士から博士後期課程まで継続的に教養科目を履修する「くさび型教育」を実践しています。番台順に履修することが推奨されており、修士課程入学直後の学期(4月入学者であれば1・2Q、9月入学者であれば3・4Q)に履修申告できる文系教養科目は400番台のみです。500番台文系教養科目は、入学半年してから(4月入学者であれば入学した年の3・4Qから、9月入学者であれば入学した翌年の1・2Qから)履修可能となります。