本講義では,「高分子」という概念の説明から始め、鎖状分子構造からいかに低分子とは異なる諸特性が発現するかを理解し、それらの測定方法の基礎を身につけるために必要な基礎的知識を提供する。また、溶液系において特に重要な溶媒との相互作用が高分子の構造や特性に与える影響についても、その熱力学的取り扱いを解説し、高分子電解質やゲルなどの関連分野の理解を助ける。本コース以外の学生には、高分子の基本構造と溶液およびゲル物性の基礎について触れる機会を提供することを目的する。
高分子を理解するには、その特異な分子構造の理解が必須である。すなわち,高分子は一般に、低分子である多数の構成要素が連なって構成される鎖状分子であることから、分子内と分子間で低分子とは異なる相互作用が生じ、これが高分子の特異性の起源となっている。溶液系ではこれに溶媒との相互作用が加わるためさらに複雑となるが、比較的単純な熱力学的取り扱いによりそれらが統一的に説明できることを学ぶ。このように本講義では、理論的取り扱いの助けを借りて、溶液中で高分子鎖はどのような形態をとりどのような性質を示すか、それはどのような相互作用によっているかについて学ぶ。
本講義は高分子科学をバックグラウンドに持たない学生を対象としており、高分子物理のうち特に溶液物性についての基礎的知識を身につけることを到達目標とする。具体的には次の能力を修得する。
1.「高分子性」とは何かを説明できる。
2.種々の一次構造を説明できる。
3.排除体積効果と分子鎖の広がりの関係を説明できる。
4.Flory-Huggins式の意味を説明できる。
5.平均分子量の概念と測定法の原理を説明できる。
6.溶液物性の濃度依存性を説明できる。
7.対イオン結合現象を説明できる。
8.ゲルの膨潤理論を溶液理論との関係で説明できる。
一次構造、コンフィギュレーション、コンホメーション、平均分子量(分布)、回転半径、排除体積(効果)、Flory-Huggins理論、θ温度、χパラメータ、光散乱、固有粘度、対イオン結合、ゲル(の膨潤)
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
教科書に従って授業を進める。各回とも、定められた講義範囲につき十分予習していることを前提に重要項目についての解説を中心として講義する。各講義最後の15分で解答(解説)も含めて小テストを行う。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 高分子の構造、分子量と分布 | 高分子の一次構造、高次構造や分子量分布の概念を説明 |
第2回 | 高分子鎖のモデルと広がり | 高分子鎖の広がりを表現するモデルや排除体積効果について説明 |
第3回 | 分子量の測定法 | 分子量測定の方法としてGPCや光散乱、質量分析の原理や得られる分子量の意味を説明 |
第4回 | 高分子固体の高次構造 | 高分子固体の結晶構造、配向性、ガラス状態などについて説明 |
第5回 | 高分子の高次構造の解析法 | 高分子固体の構造を調べる分析手法(小角散乱、電子顕微鏡、偏光など)について説明 |
第6回 | 高分子固体の相転移 | ガラス転移や融解など高分子の熱相転移や熱力学的な意味を説明 |
第7回 | 高分子液晶・高分子ゲル | 高分子を基盤とした液晶やゲルなどの材料の特性について説明 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
基礎高分子科学(高分子学会編)ISBN978-4-8079-0635-2 第1章-3章+5章第6節
講義資料は授業時に配布する
鎖状高分子の溶液物性を分子内および分子間相互作用の観点で理解しているかについて評価。毎回の小テスト(30点)+期末試験(70点)
熱力学の大学学部レベルの基礎的な知識を有していることが好ましい
今岡享稔 :E-mail:timaoka[at]res.titech.ac.jp
長井 圭治:E-mail:nagai.k.ae[at]m.titech.ac.jp
今岡享稔:メールで事前予約すること。
長井圭治:メールで事前予約すること。