本講義は、タンパク質や核酸をはじめとする生体高分子や生体関連物質の構造・物性・機能に関する基礎的事項を、関係する高分子科学とともに学ぶことで、より深い物理化学的な理解を得ることを目的としている。そのために、まず生体高分子の主な環境媒体である水の特性と水系で生じる相互作用(van der Waals相互作用、静電相互作用、水素結合、疎水性相互作用)や水和(イオン性、水素結合性、疎水性)について基礎的知識を修得する。本講義では、それらの基礎的土台を十分に構築した上で、各生体高分子や関連物質の特性について解説する。また、その際組み合わせる高分子科学からのアプローチとしては、タンパク質についてはポリペプチドのコイル-へリックス転移、核酸については、高分子電解質の対イオン結合現象、多糖類についてはゲル化現象、脂質については膜透過現象につき解説する。
生体高分子が生体系で示す、人類が容易に模倣できない卓越した高機能・高選択性を人工高分子系で実現することは、人類永年の夢で有り、近年、「生体系に学ぶ」材料開発において一部実現されつつある分野もあるが、依然として高度にchallengingな領域である。高分子の基礎を学んできた学生諸君にとって、さらに高度な領域へ進むに当たり、生体高分子から学ぶべき事は多い。生体高分子の驚くべき高機能は、決して真空中で発現されているのではなく、水や脂質などの低分子との相互作用の中から生み出されている事の意味をしっかりとらえてほしい。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1)液体水の特異性の起源がどこにあるか、水和の種類と水を介する相互作用について説明できる。
2)タンパク質、核酸、多糖類の各構成要素の種類と構造について説明できる。
3)タンパク質、核酸、多糖類の構造・機能発現に分子間相互作用がどのように関与しているか説明できる。
4)脂質の種類や構造と二分子膜の特性について説明できる。
5)酵素の種類や特性と反応機構について説明できる。
van der Waals相互作用、水素結合、静電相互作用、疎水性相互作用、コイル-ヘリックス転移、対イオン結合、ゲル化、溶解拡散機構、ミカエリスメンテン機構
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
毎回、配付資料を参考に授業を進める。最後の15-20分ほどで小テストとその解説を行う。採点結果は次回のはじめに返却した上で、理解が不十分と思われる箇所につき、追加の説明を加える。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 水-高分子/水系の相互作用- 水の特異性と各種相互作用 | 水の特異性の起源と各種相互作用の説明 |
第2回 | 水和-高分子物性と相互作用への影響- 各種水和と水和を介する相互作用 | 各種水和と、真空中と水中での相互作用の違いについての説明 |
第3回 | タンパク質-構造とコイル-へリックス転移- アミノ酸の種類とタンパク質の高次構造、協同的構造転移 | アミノ酸の構造とタンパク質の構造特性の関係を相互作用に基づいて説明 |
第4回 | 核酸-構造と対イオン結合現象- 核酸構成要素と核酸二重らせんの構造安定化 | 二重らせん構造安定化に寄与する相互作用の説明 |
第5回 | 多糖類-機能とゲル化挙動- 単糖類、二糖類、多糖類の種類と構造、特性 | 単糖類の多様性に起因する多糖類の構造、機能と相互作用との関係を説明 |
第6回 | 脂質-機能と膜透過- 脂質の種類と集合体形成、膜透過機構 | 脂質の種類と集合体形成の支配因子、膜透過機構の説明 |
第7回 | 酵素-阻害機構と触媒機構- 酵素の種類と機能、拮抗阻害と不拮抗阻害 | 酵素の種類と反応機構、酵素阻害機構の説明 |
第8回 | 総合演習+期末試験 | 分子間相互作用に基づいた総合理解 |
なし
マシューズら生化学(西村書店)(2,4,5,6,9,10,11章)(その他:マッキー生化学,ホートン生化学,ヴォート生化学)
参考資料をOCW-iで毎回配布
各種生体高分子の基本構造と特性の理解とそれらに関係する相互作用についての理解を評価する。毎回の小テスト30%、期末試験70%
物理化学第1-3、高分子物理第1-4、高分子化学第1-4、先進高分子科学第1,2などを履修していることが望ましい