本講義では,不確実性を伴う現象に適切に対処するため,確率モデルを導入しそれにもとづく解析手法を紹介する。はじめに,高等学校ですでに学んでいる確率に関する計算の仕方をもとに,公理論的確率を導入し,確率変数や確率分布などの数学的定式化を行う。次に,様々な自然現象や社会現象に見られる不確実現象がどのような確率モデルで記述できるかを詳細に議論する。特に,確率変数の和や差などの線形結合,あるいは最小値・最大値の分布が現実にどのように使われているかについて説明し,そしてポアソン過程やマルコフ過程の説明を通してより実践的な問題への対処についても議論する。
経営の実態分析や意思決定などの問題においては,不確定な現象に適切に対処する必要がある。このような不確実性を伴う現象に対して,適切な確率モデルを考え,それをもとに解析を行うことが重要となる。本講義は,この一連の解析を行うための土台を与えるものである。講義では数理的なモデルと現実問題との対応関係を十分に説明する予定である。これによって,より発展的な課題への学生の自主的な応用もねらいである。
本講義を履修することによって次のような能力を身につけることができる。
(1) 高等学校で学ぶ確率と公理論的確率の違いを説明することができる。
(2) 確率変数や確率分布を理解し,現実問題と対応付けることができる。
(3) 確率変数の線形結合や最大値・最小値の分布が,実際にはどのように使われているかを説明できる。
(4) ポアソン過程やマルコフ過程を理解し,これによって記述できる現実問題を説明することができる。
公理論的確率,確率変数,確率分布,正規分布,大数の法則,中心極限定理,ポアソン過程,マルコフ過程
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
講義を行い,最後に演習問題を解いてもらう。授業の前半に前回の演習問題の解説を行う。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 確率の考え方(その1) 標本空間と事象,確率の公理 | 公理的確率にもとづく確率の理解 |
第2回 | 確率の考え方(その2) 条件付き確率,独立性 | 条件付き確率の計算,独立であるかどうかの判定 |
第3回 | 確率変数と確率分布(その1) 離散型確率分布 | 離散型確率分布に対する確率の計算 |
第4回 | 確率変数と確率分布(その2) 連続型確率変数 | 連続型確率分布に対する確率の計算 |
第5回 | 変数変換と分布特性 期待値と分散 | 様々な分布に対する期待値・分散の計算 |
第6回 | 確率母関数とモーメント母関数 同時分布 | 確率母関数・モーメント母関数を用いた,様々な分布のモーメント計算 |
第7回 | 独立性と共分散 2次元変数変換 | 2次元確率分布に対する変数変換とその分布の導出 |
第8回 | 講義中間までの総合的復習と理解度確認テスト 演習形式による第1回から第7回までの理解度確認 | 第1回から第7回までの理解度確認と到達度自己評価 |
第9回 | 条件付き分布 条件付き期待値 | 条件付き期待値の理解と計算 |
第10回 | 線形結合の分布 最小値・最大値の分布 | 確率変数の線形結合,最大値,最小値の分布の導出 |
第11回 | 大数の法則と中心極限定理 マルコフ,チェビシェフの不等式 | マルコフ,チェビシェフの不等式による確率評価 |
第12回 | ポアソン過程 指数分布とアーラン分布 | ポアソン過程における確率の計算,アーラン分布の導出 |
第13回 | 再生過程と再生方程式 | 再生方程式の導出 |
第14回 | マルコフ連鎖 状態の分類,定常分布 | マルコフ連鎖によるモデル化,状態の分類,定常分布の導出 |
第15回 | マルコフ過程,ブラウン運動 | マルコフ過程における確率の計算 |
宮川雅巳 『統計技法』 工学数学講座 14 共立出版株式会社, ISBN-13: 978-4320016132
特になし。適宜プリントを配布する。
中間・期末試験,演習レポート
特になし。