マクロ経済学とは,GDPや失業率,物価指数といった一国単位で集計された経済変数を考察対象とする学問であり,個々の経済主体の意思決定を考察するミクロ経済学と共に経済学において最も基本となる学問分野の一つである.
この講義では,学部レベルのマクロ経済学を解説する.講義の前半では,マクロ経済学の基本概念である国民経済計算を理解したうえで,家計の消費・貯蓄行動,企業の生産・投資行動,及び資産市場と貨幣の役割についての分析手法を学ぶ.次に講義の後半では,長期の経済分析,短期の経済分析について理解し,その政策的な有効性を議論する予定である.
この講義の狙いは以下の二点である.第一に,GDPや失業率といった新聞やニュースで聞いたことのある経済指標の定義を正確に理解し,自ら説明できるようにすることである.第二に,それらがどのようなメカニズムで決定されているかについて自ら数理モデルを構築できるようになることである.
本講義を履修することにより,以下の知識と能力を修得する.
1) GDP,インフレ率,失業率,経常収支など現実によく耳にする経済変数の定義や算出方法を理解する.
2) 効用最大化や企業価値最大化といった「経済主体の最適化」を明示的に考察することで,経済主体がどのようにマクロ経済変数の決定に関わっているかを理解する.
3) 貨幣や銀行,資産市場などの身近ではあるがその全体像が掴みづらい対象に対して,簡潔な数理モデルを使ってそれらの役割を理解し,自らで説明できるようになる.
4) 長期の経済分析,短期の経済分析について理解し,マクロ経済の財政・金融政策の有効性をそのタイムスパンに応じて把握する.
名目GDP, 実質GDP,GDPデフレーター,消費者物価指数(CPI),失業率,消費の決定,貯蓄の決定,投資の決定,長期のマクロ経済均衡,短期のマクロ経済均衡,IS-LMモデル
✔ 専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
各トピックの講義終了後に課題を課す.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | マクロ経済学を学ぶ上での下準備 | マクロ経済学を学ぶ目的,学ぶ対象となる諸経済変数を理解する |
第2回 | マクロ経済のパフォーマンスを測る (1):名目GDP,実質GDP及び物価指数 | GDPの定義や名目GDPと実質GDPの違い,さらには物価水準の役割について説明できるようになる. |
第3回 | マクロ経済学のパフォーマンスを測る(2):失業と国際収支統計 | 失業(率)の定義と国際収支統計について説明できるようになる. |
第4回 | 家計の行動(1):異なる2時点に渡る消費計画 | 2期間の効用最大化から最適な消費計画を導出できるようになる. |
第5回 | 家計の行動(2): 貯蓄の役割 | 貯蓄の役割を効用最大化の見地から説明できるようになる. |
第6回 | 企業の生産・投資行動 | 2期間の企業行動から最適な投資計画を導出できるようになる. |
第7回 | マクロ経済における資産市場の役割 | マクロ経済における資産市場の役割を理解する |
第8回 | 貨幣の機能と中央銀行の役割 | 貨幣の定義について学び,中央銀行が貨幣供給を通してどのように我々の生活に影響をしているのかについて知る. |
第9回 | 理解度の確認及び復習 | 第1回〜第8回までの内容を概観し、中間試験を実施する |
第10回 | 長期のマクロ経済均衡 (1):均衡GDPの決定 | 価格が伸縮的な長期のマクロ経済均衡を2期間のモデルを用いて導出する. |
第11回 | 長期のマクロ経済分析 (2):長期における財政・金融政策 | 上記のモデルを使って,長期における政府の役割について理解する. |
第12回 | 短期のマクロ経済均衡(1):乗数効果 | 乗数効果について理解する. |
第13回 | 短期のマクロ経済均衡 (2): IS-LMモデルのセットアップと均衡の導出 | 短期のマクロ経済モデルであるIS-LMモデルを構築し,均衡の産出量と利子率を導出する. |
第14回 | 短期のマクロ経済均衡 (3): 短期における財政・金融政策の役割 | 短期における財政,金融政策の役割について議論する. |
第15回 | 講義全体を通してのまとめ | この講義で扱ったテーマを概観し,マクロ経済学第二で扱うべき残された課題について議論する. |
特定の教科書は使用しない. 講義スライド,資料をOCWにアップする.
二神孝一・堀敬一 『マクロ経済学』有斐閣
柴田章久・宇南山卓『マクロ経済学の第一歩』有斐閣
平口良司・稲葉大『マクロ経済学 入門の「一歩前」から応用まで』有斐閣
N.グレゴリー・マンキュー 『マンキュー マクロ経済学』 東洋経済
試験の成績70%+隔週で課される宿題の成績30%
明確な履修要件科目はないが,ミクロ経済学第一を履修していることが望ましい.