広く理学や工学において,大規模で複雑なダイナミクスを持つシステムをモデリングし,その挙動を推定もしくは制御するための考え方は重要です.さらに推定や制御アルゴリズムの実装には計算機が必須ですが,システムの動的特性を的確に把握した上で行う必要があります.本講義では,このような観点から情報とシステムの間の関わりに焦点を当てた,より高度な動的システムの扱いをテーマとします.具体的な講義項目は,システムの状態空間表現,安定性,可制御性・可観測性,フィードバック制御,LQ最適制御,確率過程の定式化,有色雑音,パワースペクトル, カルマンフィルタ,粒子フィルタ,詳細釣り合い,メトロポリス法であります.
【到達目標】 本講義では,時間領域における線形システムのより高度な扱いを学ぶことを目指します.とくに状態空間法に基づくシステム表現および制御法を身に付けた上で,実世界のノイズの影響を受けるシステムをモデリングする際に欠かせない確率過程の基礎を学びます.ノイズの影響を除去する推定手法として基本的なカルマンフィルタや,ランダムな現象を計算機上でシミュレートする際に必要となるマルコフ連鎖モンテカルロ法についても学びます.演習やレポート課題を通してアルゴリズムの実装ができるようになることを目標とします.
【テーマ】本講義は2部から構成されます.前半では,線形システムに対する状態空間法に基づく現代的な解析および設計手法の基礎を身につけます.後半では,ランダムに挙動をする動的システムの定式化と解析の基礎を身につけ,カルマンフィルタやマルコフ連鎖モンテカルロ法を学びます.
線形システム,状態空間表現,システムの安定性,可制御性・可観測性,制御系設計,確率過程,カルマンフィルタ,粒子フィルタ,詳細釣り合い,メトロポリス法
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
各講義は主に講義ノート,スライドに基づいて行う.毎週,講義内容の確認のためのレポートを課す.その中では数値解析ソフトウェア(Matlab等)を用いたシミュレーションを行うことも求められる.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | ガイダンス,連続系への導入,Matlab 演習準備 | 講義内容の概略。連続系のモデリングに関して理解する。線形微分方程式に関して復習する。Matlab 演習に向けた準備も行う。 |
第2回 | 現代制御の導入(I) (状態方程式と座標変換) | 運動方程式から状態方程式の導出を行う。状態の座標変換について理解する。 |
第3回 | 現代制御の導入(II) (安定性) | 一般次元の線形システムの安定判別法について学ぶ。 |
第4回 | システムの可制御性・可観測性 | 線形システムを解析し,可制御性と可観測性の判定を行う。 |
第5回 | 制御系設計(I) (状態フィードバックによる極配置) | 極配置による状態フィードバック制御系の設計を通じて,極による性能の違いを理解する。 |
第6回 | 制御系設計(II) (LQ最適制御,サーボ系) | 最適制御による制御系設計およびサーボ系の設計原理について学ぶ。 |
第7回 | 状態推定(オブザーバ),制御系設計(III)(出力フィードバック) | オブザーバに基づく状態推定について理解する。出力フィードバックにより制御器を設計する。 |
第8回 | ガイダンス 確率過程の導入 確率過程の直感的理解と定式化 | 講義内容の概略。簡単な例を通して確率過程を直感的に理解する。確率過程の定式化方法を学ぶ。 |
第9回 | 確率過程の基礎 マルコフ過程の収束,エルゴード性 | マルコフ過程の収束の条件とエルゴード性の概念を学ぶ。 |
第10回 | 線形確率システムの性質 オルンシュタイン・ウーレンベック過程,相関関数,白色雑音,有色雑音,パワースペクトル | 1次元のオルンシュタイン・ウーレンベック過程の解析を行う。有色雑音のパワースペクトルを導出する。 |
第11回 | カルマンフィルタと粒子フィルタ I 状態空間モデル,ベイズ推定,粒子フィルタ,Matlab演習 | ベイズの定理による一般的な再帰式を導出する。粒子フィルタを学ぶ。Matlabによるアルゴリズムの実装を行う。 |
第12回 | カルマンフィルタと粒子フィルタ II カルマンフィルタ, Matlab演習 | カルマンフィルタを学ぶ。Matlabによるアルゴリズムの実装を行う。 |
第13回 | マルコフ連鎖モンテカルロ法 I 詳細釣り合い条件と定常分布, メトロポリス法, Matlab演習 | 詳細釣り合い条件を満たすマルコフ過程の収束性を証明する。メトロポリス法を学ぶ。 |
第14回 | マルコフ連鎖モンテカルロ法 II メトロポリス法,メトロポリス・ヘディング法,ギブスサンプラー, Matlab演習 | メトロポリス法とメトロポリス・ヘディング法を学ぶ。Matlabによるアルゴリズムの実装を行う。 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
講義で指定する
・吉川恒夫,井村順一,現代制御論,昭晃堂,ISBN: 978-4785690496
・杉江俊治,藤田政之,フィードバック制御入門,コロナ社,ISBN: 978-4339033038
・有本卓,信号処理とシステム制御(岩波講座 情報科学20),岩波書店,ISBN: 978-4000101707
・伊庭幸人ら,計算統計 2 マルコフ連鎖モンテカルロ法とその周辺 (統計科学のフロンティア 12), 岩波書店, ISBN: 978-4000068529
・北川源四郎,時系列解析入門,岩波書店,ISBN: 978-4000054553
レポート(30%)と期末試験(70%)で評価
微分方程式や確率統計の基礎的知識があるのが望ましい。