プロセスシステム工学とは、化学物質の供給ネットワークの創造と運用において実行される意思決定を合理的に行うための方法論を追求する工学である。本講義は、プロセスシステム工学における三領域(プロセスシステム解析、プロセスシステム合成、プロセスシステム運用)を概観しつつ、領域全般の基盤となるシステム手法(モデリング、シミュレーション、最適化)の基礎的知識の教授と、その化学工学的応用手法の解説を行う。
近年、環境・安全・健康の改善を意識しながら経済的発展も維持し続けることのできる持続可能社会を構築するために、化学工学に解決を求める対象問題の多様化、複雑化がますます進行している。本講義のねらいは、多種多様なシステム手法とプロセスシステムの解析、合成、運用への応用手法を修得することである。また、講義で学んだ手法を実際の問題に応用することで、複雑な問題の解決へのシステムズアプローチの素養を身につけてほしい。
本講義を履修することで、以下の能力を修得する。
1) 化学プロセスシステムの解析、合成および運用におけるシステム思考の概念を理解しており、モデリング・シミュレーションに関わる数理的手法を扱うことができる。
2)評価や意思決定の際に必要不可欠な最適化問題の代表的な数値解法を扱うことができる。
3)上記の数理的手法を、自ら、化学工学分野で直面している問題の解決に適用することができる。
プロセスシステム、モデリング、シミュレーション、最適化、プロセス解析・合成
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
第9回までのプロセスシステムのモデリング、シミュレーションおよび評価とについての講義においては、課題に取り組んでもらいます。第10回以降のプロセスシステムの最適化についての講義においては、講義の後半でその日の教授内容に関する演習問題に取り組んでもらいます。各回の学習目標をよく読み、予習・復習で行って下さい。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | システムとプロセスシステム | プロセスシステムの定義とシステム思考の基本概念を説明できる。 |
第2回 | プロセスシステムの解析と合成 | プロセス開発からプロセス設計への流れにおける、プロセスシステムの解析・合成の方法論の概略説明ができる。 |
第3回 | システムの構造モデルの基礎 | システムの構造モデルの定義と様々な構造モデルの表現方法を理解し、Interpretive Structural Modeling (ISM) について隣接行列から可達行列、スケルトンを導出できる。 |
第4回 | 構造モデリング手法の化学工学的応用 | ISMの工学的応用課題に取り組み、構造モデリング手法の化学工学的応用の素養を身につける。 |
第5回 | マルチスケールモデリング・シミュレーション | 複雑系の構成論的システム思考を理解し、プロセスシステムの解析と合成におけるマルチスケールモデリング・シミュレーションの適用手法を説明できる。 |
第6回 | ニューラルネットワークモデリングと機械学習 | 経験的ネットワークモデルの特徴を理解し、ニューラルネットワークの構造ならびに機械学習に関する数理的手法を説明できる。 |
第7回 | 論理的ネットワークモデリングの基礎 | 離散事象システムの特徴を理解し、ペトリネットモデルの表現方法とその適用手法を説明できる。 |
第8回 | 論理的ネットワークモデリング手法の化学工学的応用 | ペトリネットモデリングの工学的応用課題に取り組み、論理的ネットワークモデリング手法の化学工学的応用の素養を身につける。 |
第9回 | プロセスシステムの評価と意思決定法 | プロセスシステムの評価手法と、階層化意思決定法を説明できる。 |
第10回 | 最適化問題の特徴と定式化 | プロセスシステムの解析、合成、運用における最適化問題の特徴と、問題を解く手順の概略説明ができる。 |
第11回 | 線形/非線形回帰モデルの構築とパラメータ推定 | プロセスシステムの解析、合成、運用における線形/非線形回帰モデルの適用方法を理解し、回帰モデルのパラメータを推定することができる。 |
第12回 | 化学工学における二次計画問題の基礎 | 二次の目的関数を用いた最適化問題の特徴を理解し、その特徴を数理的に解析することができる。 |
第13回 | 一次元探索手法の基礎と化学工学的応用 | ニュートン法を用いてプロセスシステムの解析、合成、運用における最適化問題を解くことができる。 |
第14回 | 多変数最適化手法の基礎と化学工学的応用 | 勾配法を用いてプロセスシステムの解析、合成、運用における最適化問題を解くことができる。 |
第15回 | 進化論的計算手法の基礎と化学工学的応用 | 遺伝的アルゴリズムの特徴を理解し、進化論的計算手法の化学工学的応用の素養を身につける。 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
黒田千秋編集『システム解析』朝倉書店,ISBN-13:978-4254256048
赤木新介著『システム工学』共立出版,ISBN-13:978-4320071339
定期的な課題への提出レポートの採点結果と、講義中に行う演習の採点結果を併せて成績を評価する。
化学工学の知識があること