本講義の前半ではまず,『応用解析序論第一』で学んだフーリエ級数の理論を新たな視点(関数解析の立場)から再訪する.具体的には,フーリエ級数を「二乗可積分な関数の空間」の「正規直交基底」による展開として捉え直すことを学ぶ.次いで後半では,フーリエ変換の基礎理論を学ぶ.フーリエ変換は有界区間上の関数を対象としていたフーリエ級数を,実直線上の関数に拡張したものである.これにより,さらに多様な応用への道が開かれる.
本講義のねらいの一つは,フーリエ級数論の関数解析的な理解を通し,「関数の幾何学」を展開することの有用性を学ぶことにある.この考え方とそのさらなる応用は『函数解析』でより深く学ぶことができる(さらに『実解析第一・第二』で学ぶ測度論への導入としての役割も果たす).第二のねらいは,フーリエ変換の基礎を学び,その典型的な応用について理解してもらうことである.フーリエ変換の応用範囲は極めて広いが,本講義ではとくに微分方程式への応用を重点的に取り上げる.
1)内積空間・ヒルベルト空間の定義や基本性質を述べることができ,二乗可積分な関数の空間などの例を挙げられるようになること.
2)フーリエ級数の関数解析的な見方を理解し,ベッセルの不等式を導いたり,パーセヴァルの等式やリーマン−ルベッグの補題を級数や積分の計算に応用できるようになること.
3)フーリエ変換の基本性質を理解し,いくつかの具体例が計算できるようになること.また,フーリエ逆変換やフーリエの反転公式を理解し,微分方程式の解法などに応用できるようになること.
二乗可積分な関数の空間,内積空間・ヒルベルト空間,正規直交基底,ベッセルの不等式,パーセヴァルの等式,リーマン・ルベッグの補題,フーリエ変換・フーリエ逆変換,フーリエの反転公式
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
毎回講義プリントを配布し,それにもとづいて授業を進める.また,講義内容の理解を確認するため,毎回提出課題を与える.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 二乗可積分な関数の空間,内積空間とヒルベルト空間 | 二乗可積分な関数の空間の定義を理解し,その空間に含まれる(あるいは含まれない)関数の例が挙げられること.また,内積空間とヒルベルト空間の定義を理解し,その基本的な性質が証明できるようになること. |
第2回 | フーリエ級数の平均二乗収束(1) | 内積空間の基本性質を理解し,それを用いてベッセルの不等式が証明できるようになること.また,パーセヴァルの等式やリーマン・ルベッグの補題を理解し,級数や積分の計算に応用できるようになること. |
第3回 | フーリエ級数の平均二乗収束(2) | 第2回と同様. |
第4回 | フーリエ変換とその基本的性質 | フーリエ変換の定義を述べることができ,微分との関連などの基本的な性質を証明できるようになること. |
第5回 | フーリエ変換の例 | フーリエ変換のいくつかの具体例を計算できるようになること. |
第6回 | フーリエの反転公式 | フーリエ逆変換の定義やフーリエの反転公式を正確に述べられるようになること. |
第7回 | フーリエ変換の応用 | 講義中に指示する. |
本講義シラバスを参考にして,各回の前後に予習・復習をそれぞれ概ね100分以上行うこと(提出課題への取り組みも含む).予習・復習の題材については必要に応じ,講義プリント等にてより具体的に指示する.
特になし
[1] 高橋陽一郎『実関数とフーリエ解析』岩波書店(2006年):本講義(第4Q)と関係する箇所は主に第6章と第7章である.第6章の内容は本講義後半と共通する部分が多く,講義の予習や詳しい証明の確認などに適している.第7章にはフーリエ変換の応用が数多く述べられており,講義内容への興味をさらに深める素材として活用することができる
[2] エリアス・M. スタイン,ラミ・シャカルチ『フーリエ解析入門』(訳者:新井仁之,杉本充,高木啓行,千原浩之)日本評論社(2007年):フーリエ解析に関する世界的に定評のある教科書である.本講義(第4Q)と関係する箇所は主に §3.1 と第5章.問題が豊富であり,問題集としても役立つ.
各回の講義内容の理解を毎回の提出課題で評価する.また,上記「到達目標」の達成度を期末試験により評価する.なお,「到達目標」で述べたことよりやや高度な内容の理解も多少問うことになる(詳細は講義内で述べる).
配分は提出課題(30%),期末試験(70%)とする.
『微分積分学第一・演習』,『微分積分学第二』,『微分積分学演習第二』,『解析学概論第一』,『解析学概論第二』,『応用解析序論第一』の内容を習得していることが望ましい.