本講義では物理学や工学,あるいは幾何学など,様々な分野で重要な役割を果たす,非線形偏微分方程式の入門的な解説を行う.
「非線形偏微分方程式」という言葉が指す対象は広大であり,それぞれの方程式が独自の世界を形成している.とはいえ,ある程度は共通した指針・考え方もあり,これを知っておくことは個別の方程式について深く学ぶ際の助けになる.本講義のねらいは,具体的な非線形偏微分方程式を扱いつつ,こうした考え方を説明することにある.
なお,本講義は「解析学特論B1」と合わせて完結するものである.
非線形偏微分方程式の解の性質を調べる上で役立つ手法・考え方を取得する.
非線形偏微分方程式,ソボレフ空間,アプリオリ評価,エネルギー法
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
通常の講義形式で行う.適宜レポート課題を出題する.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 序論 | 内容:講義の概要とねらいについて説明する. 課題:どういった偏微分方程式(以下PDE)があり,どういった現象が見られるか.また,何が数学的な問題になるのか,といったことが説明できるようになること. |
第2回 | 線型拡散方程式 | 内容:線型拡散方程式の解析法を復習する.これは講義の後半で非線形拡散方程式を扱うための準備であると同時に,線形と非線型の対比を行うためでもある. 課題:フーリエ変換,エネルギー法,最大値原理といった重要な道具を使いこなせるようになること. |
第3回 | 線型放物型方程式 | 内容:線型放物型方程式をガレルキン法を用いて解く.このことを通し,関数空間(ソボレフ空間)の導入がPDEの解析において自然かつ重要であることを説明する.また,「簡単な方程式の解を用いてより難しい方程式の近似解を構成する」という広く用いられるアイデアについて説明する. 課題:ソボレフ空間や弱解,弱コンパクト性といった概念がPDEの解析にどう用いられるのか説明できるようになること. |
第4回 | 非線形拡散方程式の時間大域解:常微分方程式方程式からの例 | 内容:非線形微分方程式の時間大域解(有限時間で特異性の生じない解)を構成する上で重要な考え方を,常微分方程式を題材に学ぶ. 課題:アプリオリ評価の考え方を理解し,非線形常微分方程式方程式の時間大域解を構成できるようになること. |
第5回 | 非線形拡散方程式の時間大域解:エネルギー法とアプリオリ評価(1) | 内容:エネルギー法を用いて非線形拡散方程式の解のアプリオリ評価を導出し,時間大域解を構成する. 課題:エネルギー法を用いて解のアプリオリ評価を導けるようになること. |
第6回 | 非線形拡散方程式の時間大域解:エネルギー法とアプリオリ評価(2) | 同上 |
第7回 | 粘性Burgers方程式の解の漸近挙動 | 内容:ここまでの内容の応用として,粘性Burgers方程式の解の漸近挙動(十分時間が経ったときの解の様子)を調べる. |
第8回 | その他のトピック | 講義中に指示する. |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと.
使用しない.
[1] Lawrence C. Evans, Partial Differential Equations, American Mathematical Society, 2010:説明が丁寧で読みやすい.また,取りあげているトピックのバランスもよい.とくに入門書ではしばしば扱いが小さい(が実際には中心的な研究対象である)非線形偏微分方程式を詳しく解説している点がありがたい.
[2] 松村昭孝・西原健二『非線形微分方程式の大域解』日本評論社(2004年):非線形偏微分方程式の解析で広く用いられるエネルギー法について解説した教科書である.定義・定理の羅列ではなく,非線形微分方程式を解く際の考え方が丁寧に解説されている.
[3] スタンリー・ファーロウ『偏微分方程式―科学者・技術者のための使い方と解き方』朝倉書店(1996年):各種の偏微分方程式の導出,その物理的意味および解法が分かりやすく説明されている.こうした事柄は数学の教科書では省略されることが多く,本書で補うとよりよい理解が得られるだろう.
出席と提出課題により評価する.
解析学特論B1(MTH.C406)も同時に履修すること.