生命理工学の対象は言うまでもなく有機化合物である。そこで本講義では、有機化合物を利用しあるいは研究するために必要な基礎事項、すなわちそれらの命名法、性質、分析法、反応、合成法、および利用についての知識および考え方を、体系的かつ網羅的に解説する。内容は、IUPAC命名法、分子の電子状態と結合、分子の立体的な構造、分子構造の機器(NMR、IR、MS)による分析法、官能基の反応、炭素—炭素結合形成反応と有機合成、天然および人工の有機化合物の利用などであり、理解を助けるための理論的背景や個々の項目の相互関係も同時に示しながら、教科書に従い順を追って講義する。
有機化学を学ぶにあたって、まず化合物の命名法や分子の結合の電子状態とそれに基づく性質や構造、そして化学反応の記述に不可欠な有機電子論など、全体に共通する総論的な知識や考え方の修得を確実なものとする。次に、有機化合物の個々の官能基の特徴的な反応や機器分析法について、ただ各論として暗記するだけでなく先の総論に基づく論理的な理解のもとで、学習内容を定着させる。さらに、ここで学んだ総論と各論の知識や考え方を再確認した上でこれらを横断的に理解する能力の向上を目指し、有機化合物の合成や天然および人工の有機化合物の利用についての見識を与える。すなわち本講義では、有機化学の基本的知識や考え方を修得させると同時に、それがカバーする利用範囲も把握させる。
有機化学第二(アルコール,アルケン)では、タンパク質・核酸・糖などに含まれる4つの主要原子のうち炭素・水素・酸素の3つの原子を含むアルコール及びエーテルの合成法、性質、反応を学ぶことにより、生体分子の性質を理解するための扉を開くことを目的とする。この際、核磁気共鳴(NMR)や赤外線分光(IR)により、有機化合物の構造を同定する手法についても学び、実践力も習得する。さらに、生体分子中にも含まれる炭素炭素二重結合(アルケン)の反応を学ぶことにより、さらに幅広く生体分子の反応を学ぶとともに、有用物質合成の中間体としてのアルケンの利用についても学ぶ。
本講義を履修することにより次の知識を修得する。
1)アルコールの官能基であるヒドロキシ基の性質、つまりO-H結合がアルコキシドイオンとプロトンに解離しやすいこと。2)アルコールを酸化するとカルボニル化合物になること。3)有機金属反応剤(Grignard試薬など)がカルボニル化合物に求核付加反応を起こすと、炭素-炭素結合の生成とともにアルコールが生成することを利用し、様々なアルコール類の合成戦略を立てること。4)アルコールからハロアルカン、エステル、エーテルを合成する方法。5)アルコール、エーテル、カルボニル化合物は、アルケンの付加反応からも合成できること。6)こういった合成反応で得られる生成物を同定するために、いかにNMR、IRや質量分析法を用いるかを学ぶ。
アルコール、エーテル、アルケン、NMR、IR、質量分析
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
下記の教科書の内容に沿ってその順で講義する。(したがって講義箇所について、教科書の予習・復習を各自で行うこと)。毎回の授業の最後の10分間で小演習を行い、その解答や注意点は次回の授業の冒頭で解説する。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | アルコールの性質 | アルコールの命名・構造・物理的性質 |
第2回 | アルコールの合成 | 求核置換反応、アルデヒドの還元 |
第3回 | Grignard反応 | 有機金属、合成戦略 |
第4回 | アルコールの反応 | 酸・塩基との反応、転位反応、エステル、ハロアルカン |
第5回 | 理解度判定テスト 1 | アルコール、Grignard反応 |
第6回 | エーテルの合成 | エーテルの命名・物理的性質、Williamsonエーテル合成 |
第7回 | エーテルの反応 | オキサシクロプロパン(エポキシド) |
第8回 | プロトンNMR:化学シフトとスピン分裂 | 核磁気共鳴のしくみ、分子構造の解析 |
第9回 | 炭素NMRと様々な応用 | 相関分光法 |
第10回 | 理解度判定テスト 2 | エーテル、NMR |
第11回 | アルケンの構造 | アルケンの命名・構造・物理的性質 |
第12回 | IR分光法と質量分析法 | 結合振動、分子量の測定、フラグメント、不飽和度 |
第13回 | アルケンの反応1 | π結合、水素化、ハロゲン化、オキシ水銀化、ヒドロホウ素化 |
第14回 | アルケンの反応2 | ジアゾメタン・カルベン、エポキシ化、四酸化オスミウム、オゾン分解、ラジカル反応 |
第15回 | 理解度判定テスト 3 | アルケン、IR分光法、質量分析法 |
ボルトショア―有機化学(上)第6版 化学同人
ボルトショア―有機化学(下)第6版 化学同人
ボルハルトショア―現代有機化学・問題の解き方 第6版 化学同人
毎回の授業の最後に⾏う⼩演習の取り組み(30%)と、講義期間中に行われる3回の「理解度判定テスト」の成績(70%)の合算で評価する。
なし
「有機化学第一 (アルカン、ハロアルカン)」〜「同第四 (カルボニル化合物、アミン)」の内容は重複しないため、全てを順番に履修して有機化学全体が効果的に学習出来る構成になっている。したがって、この順で連続して履修するのが好ましい。「有機化学第一 (アルカン、ハロアルカン)」〜「同第四 (カルボニル化合物、アミン)」の修得後は、より専門的な有機化学の講義として「生物有機化学」と「医薬品化学」が開設されているので、各自の志向によりこれらの両方または片方を、さらに履修することを勧める。