物質科学の最も基礎となる電子論を中心に固体物理の基礎を講義する。まず、固体の電子状態を記述するバンド理論を基礎から講義する。その最も単純かつ有用な取扱いとして、"ほとんど自由な電子"モデルと、"強結合近似"の方法を紹介する。最新の非経験的電子状態理論およびその数値シミュレーションへの適用にも触れる。電子がFermi粒子である事による交換効果を記述するHartree-Fock近似を講義した後、相関効果と呼ばれる交換効果以外の多体効果を取り入れる波動関数理論と密度汎関数理論を紹介する。
これらの内容に基づき、低次元物質系や金属材料組織界面などへの適用例を議論する事により理解を深める。
・固体の性質を微視的に決定しているのは電子状態である事を理解する。
・最も単純な遍歴電子系である自由電子金属状態を理解する。
・固体結晶の電子状態がBloch状態となる事を理解する。
・電子間にはCoulomb反発エネルギーを下げるために多体効果が働いている事を理解する。
・相互作用している電子状態を非経験的に記述する第一原理電子状態理論の概要を理解する。
結晶構造、逆格子、Brillouinゾーン、電子バンド構造、ほとんど自由な電子モデル、強結合近似、フォノン、第一原理電子状態理論、Born-Oppenheimer近似、Hartree-Fock近似、密度汎関数理論
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
毎回ではないが、講義の始めに、復習を兼ねて前回の演習問題の解答を解説します。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | Fermi-Dirac統計と自由電子ガス | Fermi-Dirac統計のもとで、自由電子ガスのエネルギーを導出する。 |
第2回 | 空間対称性と結晶構造 | ブラベー格子と、主要な結晶構造を説明する。 |
第3回 | 逆格子とBrillouinゾーン | 実格子から逆格子ベクトルを計算し、ブリルアンゾーンを描く。 |
第4回 | Blochの定理 | 結晶格子内の価電子の波動関数がBlochの定理に従うことを理解する。 |
第5回 | ほとんど自由な電子 | ほとんど自由な電子(NFE)モデルと、バンドギャップの起因について説明する。 |
第6回 | Fermi面 | フェルミ面の形状と、結晶構造・電子状態との関連を理解する。 |
第7回 | 強結合近似、低次元系とナノ材料 | 強結合近似について説明する。さらに、低次元物質の電子状態をNFEモデルや強結合近似を用いて記述する方法を理解する。 |
第8回 | 第7回までのまとめと演習 | 第1回から第7回までの理解度確認と到達度自己評価。 |
第9回 | ブラケット記法 | 状態ベクトルと演算子のブラケットによる記法を理解する。 |
第10回 | Born-Oppenheimer近似 | Born-Oppenheimer近似を理解する。 |
第11回 | Bose-Einstein統計とフォノン | フォノンのBose-Einstein統計による記述を理解する。 |
第12回 | 生成消滅演算子と多体量子論の基礎 | 生成消滅演算子による数表示を用いて多体量子論の基礎を学習する。 |
第13回 | 第一原理電子状態理論I(Hartree-Fock近似と波動関数理論) | Hartree-Fock近似と波動関数理論について理解する。 |
第14回 | 第一原理電子状態理論II(密度汎関数理論) | 密度汎関数理論について理解する。 |
第15回 | 第一原理電子状態理論III(金属材料組織界面などへの適用例) | 金属材料組織界面などへの適用例を通して第一原理計算の有用性を理解する。 |
必要に応じて教員作成の講義テキストを用いる。
キッテル「固体物理学入門」、グロッソ、パラビチニ「固体物理学」、
J.J. サクライ「現代の量子力学」、押山淳他「計算科学3 - 計算と物質」
試験により評価する。
量子力学の基礎を修得済であることが望ましい。