学部の量子力学を通して、水素原子、スピン‐軌道相互作用、Zeeman効果、Stark効果といった内容は一通り勉強をしていると思われます。しかしながら、「水素原子もアルカリ原子も最外殻の電子数は一つなのに、エネルギー構造にどうして大きな差があるのか?」ときかれると、即答するのは難しいものです。実際、水素原子の場合、エネルギーは主量子数のみで決まりますが、アルカリ原子では、同じ主量子数をもっていても方位量子数が異なるとエネルギーが変わります。講義では、学部の講義で習った現象を、今一度、直感的に理解することを試みます。また原子と外場との相互作用のうち、電磁場との相互作用は、その応用を考えた時、大変重要なものとなります。電磁場を正弦的に振動する電場として扱うことで、原子‐電磁場間の相互作用を記述することができます。しかし我々は、電磁場を量子化することが出来ることを知っています。電磁場を量子化しなければ理解が出来ない現象とは一体何でしょうか?講義では、こうした点についても議論をしていきます。
【到達目標】 原子の基本構造、ならびに分光学的特徴を理解することを目的とします。さらに原子が磁場、電場、電磁場などの外場におかれたときの応答を理解します。
【テーマ】 もっとも単純な水素原子からスタートして、最外殻に電子が一つあるアルカリ原子、二つの電子があるヘリウム原子を扱います。原子のエネルギー構造は、スピンと軌道の相互作用により分裂し、さらに核スピンの寄与を通して、より細かい構造をもちます。原子のエネルギー構造に対する一通りの理解ができた段階で、原子を外場にさらした際に生じるエネルギーの分裂やシフトについて議論します。
原子のエネルギー構造、原子の外場に対する応答、光の量子化、原子と光の相互作用
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
穴埋め式のプリントを配布し、パワーポイントを使って講義を進める。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 水素原子、アルカリ原子、微細構造(スピン‐軌道相互作用) | 水素原子、アルカリ原子のエネルギー構造を説明せよ。 |
第2回 | 原子の磁場に対する応答(ゼーマン効果)、Landeのg因子 | 正常ゼーマンと異常ゼーマン効果について説明せよ。 |
第3回 | 原子の電場に対する応答(シュタルク効果)、Light shift、Rabi振動、光学遷移の選択則 | 静的電場を加えた場合と電磁場を加えた時のシュタルク効果について説明せよ。 |
第4回 | ヘリウム原子(一重項状態、三重項状態、交換相互作用) | ヘリウム原子のエネルギー構造を説明せよ。 |
第5回 | 核スピンと超微細構造、Landeのg因子再考、超微細構造のZeeman分裂 | 超微細構造に磁場を加えた時に発生するゼーマンシフトを説明せよ。 |
第6回 | 電磁場の量子化、直交位相振幅、Fock状態、Coherent状態、Squeezed状態 | レーザーとはどのような光であるか、電磁場の量子化の観点から説明せよ。 |
第7回 | 光と原子の双方を量子化して扱う現象1(Jaynes-Cummingsモデル、真空Rabi分裂) | 真空ラビ分裂を説明せよ。 |
第8回 | 光と原子の双方を量子化して扱う現象2(自然放出のWeisskopf-Wigner理論、Cavity QED) | 自然放出が生じる理由を量子論的に説明せよ。 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
講義中に配布する資料を用います
"Atomic Physics", Christopher J. Foot, Oxford master series in atomic, optical and laser physics
"The Physics of Atoms and Quanta", H. Haken and H. C. Wolf, Springer
レポートにより評価を行います
量子力学に関する基礎知識を習得していることが望まれます。