科学が国家と経済の重大な一部門として政治指導者に認められるようになった20世紀以降、学界における褒賞や個人的報酬の追求に野心を燃やす科学者が現れ始めた。そうした中には、手段を果たすために学界の倫理を侵す科学者の事例もみられる。科学研究が社会と併存する限り、研究プロジェクトは時として特定の政治的・商業的利益にのみ奉仕するよう計画される可能性があるが、それは科学の公的・中立的な性質を大いに損なうものである。21世紀、こうした状況がなおさら顕著となった今日、科学者は自身の職業的倫理を問われている。この講義ではこうした問題を取り扱う。
授業では、倫理的な危機の時代における科学者の行動や態度をめぐる議論を指導し、受講者の問題意識を高めることをねらいとする。議論のテーマとして、20世紀科学史のよく知られた事例である、①T.D.ルィセンコによるソ連における遺伝学研究の廃止、②DNAの化学的構造解明における競争のストーリーを用いる。
本講義を履修することによって、受講者は次のことができるようになる。
1. 科学史で採用されている研究方法を理解する。
2. 現代科学技術に関わる倫理的問題を検討・評価する。
3. 科学と社会、倫理をめぐる問題を、教室での議論を通じて分析する。
科学者,社会,政治,倫理,科学史
専門力 | 教養力 | ✔ コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
授業では、大きなテーマを二つ用意している。それぞれのテーマについて、講義パートとディスカッションパートが設けられる。ディスカッションに先立って、講師から幾つかの特別な論点を提起する。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | ガイダンス。 | 科学・技術と社会の関係を理解し、同時に現代の研究活動が潜在的に内包している危い側面について理解する。 |
第2回 | ヒーローか、それとも悪役か?DNA二重らせん構造の発見における、ジェームズ・ワトソンとロザリンド・フランクリンの役割をめぐって(講義とビデオ)。 | 科学史における最も卓越した発見の背後に隠されたエピソードを理解する。 |
第3回 | 上記テーマをめぐるディスカッション。 | 科学者が今日、自身の研究活動において直面する倫理的な課題について議論する。 |
第4回 | 授業に関係する見学活動を予定。 | 詳細については一週間前までを目途に連絡する。 |
第5回 | 政治が科学に介入する時:ソ連遺伝学の悲劇の歴史(講義)。 | 20世紀科学における最も悪名高い事例について理解する。 |
第6回 | 上記テーマをめぐるディスカッション。 | 科学者個人と国家の双方が、科学の発展において果たし得る役割や領分について議論する。研究と政治、イデオロギーの関係にまで踏み込んだ議論を行う。 |
特になし。
英語版に挙げておいた参考図書を確認すること。
ディスカッションへの主体的な参加・貢献度 (70%), および、レポート(30%).
本講義は、特に「Tokyo Tech Summer Program 2016」の参加学生を対象に開講されるものであるが、一般の在学生も履修できる可能性がある。履修を希望する学生は、事前にEメールにて講師に連絡をとること。