コンプライアンスが重要視される昨今でも、自動車や電機、製鋼、医療機器、化学、メーカーにおける検査不正やデータ改ざん、故障偽装などの倫理問題が後を絶たない。博士科学者・技術者は、個人としての生活倫理こそ身につけているはずであるが、専門知識と研究能力に加え、専門家としての倫理も身につけることが求められる。本講義では、工学や科学技術に関わる事件、事故に内在する倫理問題にはどんなものがあるのかを知り、その背後に潜む本質は何なのかをケーススタディも通して理解したうえで、自身の専門分野が関わる倫理問題、将来もたらす可能性のある倫理問題について推察する能力、また、それら倫理問題を解決する手法を身につけることを目的とする。
(1)博士科学者・技術者のもつべき倫理に関する基本的事項を体系的に理解する
(2)過去に起こった実事例を分析し、内在する倫理問題および背後に潜む本質的問題を摘出する能力を身につける
(3)自身の専門分野が関わる倫理問題、将来もたらす可能性のある倫理問題について推察する能力を身につける
(4)大学や研究機関もしくは企業内で、自身が行うと想定される科学者・技術者倫理教育のプログラムを策定できる
✔ 該当する | 実務経験と講義内容との関連(又は実践的教育内容) |
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33年にわたる企業((株)日立製作所中央研究所および本社)勤務において、リスクマネジメントや倫理教育を含む研究開発マネジメント業務を経験。 |
社会的責任、研究不正、知財保護、製造物責任、環境倫理、エネルギー問題、人工知能、デュアルユース技術、コンプライアンス、多様化社会、倫理教育
専門力 | ✔ 教養力 | ✔ コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
本講義は、各回、前半を講義形式、後半をディスカションやディベートなどアクティブラーニングの形で進める。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | (1)科学者・技術者の社会的責任と倫理(10月4日(火)5-6限)Zoom 科学者・技術者にとっての倫理とは何か、科学者・技術者の社会的責任にはどのようなものがあるか、倫理と法の関係はどのようなものかなどについて考える。また、ケーススタディとして、優秀な理系人材が関与した事件例の背景や要因について議論する。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、議論のポイントを整理し提出する。 |
第2回 | (2)研究倫理(10月11日(火)5-6限)Zoom 現在の科学者・技術者の置かれた状況や、不正行為や研究資金の不正使用など研究活動における倫理について考える。また、研究ノートの役割やあり方についても考察する。さらに、ケーススタディとして、画期的な研究として注目を浴びた発表論文に研究不正が発覚した事件例の背景や要因について議論する。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、議論のポイントを整理し提出する。 |
第3回 | (3)技術情報と知的財産の保護(10月18日(火)5-6限)Zoom 技術情報とはどういうものか、知的財産とは何か、創出したアイデアや技術を守る知財権保護制度について学ぶ。また、実際にアイデアを特許化する際の手順についても知っておく。さらに、ケーススタディとして、企業の研究所において権利化した知財に対する対価の支払いをめぐる訴訟について考える。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、議論のポイントを整理し提出する。 |
第4回 | (4)製造物責任(11月1日(火)5-6限)Zoom 製品を開発する側に生じる製造物責任の特徴や使う側との関係などについて考える。ケーススタディとして、製品を使って遊んでいた子どもが被害を被った事故例に製造物責任法が適用されるか否かについて議論する。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、ディベートのポイントを整理し提出する。 |
第5回 | (5)環境倫理(11月8日(火)5-6限)Zoom 環境・資源問題、エネルギー問題、さらに、環境保全に対する技術者の取り組みについて考える。併せて、環境プラグマティクスに関するディベートを行う。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、ディベートのポイントを整理し提出する。 |
第6回 | (6)新科学技術と倫理(11月15日(火)5-6限)Zoom 人工知能関連技術、自動運転、メタバース、ブレインサイエンス等、新科学技術に関わる倫理について考える。併せてデュアルユース技術に関してディベートを行う。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、ディベートのポイントを整理し提出する。 |
第7回 | (7)多様性社会と科学者・技術者倫理(11月22日(火)5-6限)Zoom 研究開発活動において、議論を行う人権に関して科学者・技術者の取り組むべき姿勢、社会のグローバル化と多様性に対する科学者・技術者の取るべき態度について、倫理の側面から考える。また、科学技術の進展によりクローズアップされてきた人権問題に関するディベートを行う。最後に、最終課題発表と議論を行う。 | 事前に配布資料(特にケーススタディ)を読んでおく。 講義後、ディベートのポイントを整理し提出する。 |
教科書は指定せず、アップロードした講義資料を使用する
・北原義典「はじめての技術者倫理」講談社(2011)
・Code of Ethics for Engineers, National Society of Professional Engineers(2007)
・野城他「実践のための技術倫理」東京大学出版会(2005)
・石原孝二・河野哲也(編)「科学技術倫理学の展開」玉川大学出版部(2009)
・R. Schinzinger M. Martin, Introduction to Engineering Ethics 2nd edition, McGraw-Hill Science, 2009
・R. K. Merton, The Sociology of Science, The University of Chicago Press( 1973)
・J. M. Ziman, Real Science: What It is and What It Means, Cambridge University Press (2000)
・日本学術会議 「声明 科学者の行動規範」 (2006)
・日本学術会議 「声明 科学者の行動規範 -改訂版-」 (2013)
・林真理他「技術者の倫理」コロナ社(2006)
授業の取り組み姿勢(20%)、課題レポート(30%)、及び最終課題の内容(50%)をもとに評価する。
特になし
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