グローバル化の時代にあって忘れられがちな国際社会の諸相に案内する。具体的にはドイツ、フランス、イタリア、ロシア、チェコ、メキシコ、ブラジルの7カ国に焦点をあわせながら、各国文化の民族性、伝統、歴史、社会などを概観する。各地域の専門研究に従事する7人の講師が、それぞれ独自の切り口から、オムニバス形式でこの7地域をあつかう。
本講義のねらいは、異文化理解の促進と国際意識の醸成である。一連の講義を通じて得た知識は、履修者が将来、多様な文化的出自の持ち主たちが集まるグローバルな環境で生きることになったときに、かならずや力になるだろう。
講義概要
6月22日(月)、29日(月) ドイツ 若松 功一郎
「言語」「地域」「思想」という三つの切り口から、ドイツ文化の中心にある「ドイツ的なもの」について考えてみましょう。まず「言語」については、現在のドイツ語がどのようにして成立したのか、その過程を追うことでドイツ語話者のアイデンティティの在り方が明らかになります。「地域」については、「テウトニア」「トイトニア」といった古代・中世におけるドイツに該当する地域の呼び名からドイツという国について考えてみましょう。当時ヨーロッパの中心地であったローマとの関係性が大切になってきます。最後に「思想」と題して、通常の思想史ではあまり扱われない幾人かの思想家を取りあげながら、ドイツ思想の時代における変遷と一貫性とを概観してみましょう。
6月25日(木)、7月2日(木) ブラジル スエナガ・エウニッセ
ブラジルは世界のなかでももっとも親日的な国の一つだと私は思います。
一般のブラジル人が日本に好印象をもっているのは、ブラジルに移住した日本人やその子孫の影響が大きいです。日本人は、最初の頃はブラジルの文化や習慣になじめずに苦労し、しばらくすると第二次世界大戦がはじまり、ブラジルが連合国側についたので敵性国人として苦労しました。しかしその後はブラジルに根付き、子どもの教育にも熱心だったことから、日系人はブラジルである程度の地位と評価を得ることができました。
この授業では、かんたんな日本人のブラジル移住の歴史、そして推定190万人いるとされる日系人がブラジルでどのように暮らし、どのようにブラジル社会に貢献しているのかを紹介したいと思います。
7月6日(月)、13日(月) ロシア 土田 久美子
ロシアは日本の隣国ですが、欧米やアジア諸国よりも馴染みが薄いかもしれません。
初回は、まずはロシアを身近に感じてもらうために、ロシア人の生活文化・習慣、食文化を学びます。異文化体験を楽しみながら、日本の文化・習慣との違いや意外な共通点を見つけていきましょう。
第二回のテーマは「ロシア・バレエと日本」です。国際的なバレエコンクールで入賞する日本人が多くなりましたが、そもそも日本にバレエが知られる契機になったのは、1922年(大正11年)に行われたロシア人バレリーナのアンナ・パヴロワ(1881-1931)の日本公演でした。彼女が踊った『瀕死の白鳥』は、映画評論家・淀川長治や歌舞伎俳優・尾上菊五郎を強く感激させました。この授業ではその『瀕死の白鳥』を鑑賞します。バレエに触れ、ロシア文化に関心を持つ第一歩になればと願っています。
7月9日(木)、16日(木) メキシコ 伏見 岳志
メキシコは遠い国に思えます。しかし、昨今では、隣国のアメリカ合衆国との人やモノの移動、あるいはそれを遮断する国境の壁をめぐって、日本でもずいぶんとニュースに取り上げられるようになりました。では、こうした壁や移動の問題はなぜ生じたのか、この問いに答えるためには、背景にあるメキシコの社会や文化、歴史的な事情を理解する必要があります。そこで、この講義では、こうしたメキシコの諸事象を取りあげることで、メキシコが隣の米国との愛憎する関係を築いてきた、その過程を考える手がかりを探していきます。
7月20日(月)、27日(月) チェコ 宮崎 淳史
作家フランツ・カフカ、音楽家スメタナ、ドヴォルザーク、アール・ヌーヴォーの旗手ミュシャなど数多くの芸術家を輩出してきたチェコ。本講義では、20世紀の美術に焦点を当て、オーストリア、フランス、ドイツ、そしてロシアに囲まれているがゆえの文化の複数性を分析する。周りの大国から最新の芸術を吸収することもあれば、ナチスや当時共産主義国家だったソ連に翻弄されることもあるなか、チェコの芸術家はどのような作品を制作してきたのかを、それぞれの時代の文化的背景を説明しながら紹介する。
7月23日(木)、30日(木) フランス 梶田 裕
本講義では、文学と映画の関係について考えてみたいと思います。文学と映画の関係は、文学作品の「翻案」だけにとどまりません。フランスの映画批評家であるアンドレ・バザンは、映画と文学の間に、「根深いところで共有された美学的条件」や「芸術と現実との関係についての共通した見解」を早くから読み取っていました。哲学者のジャック・ランシエールもまた、「映画は文学の後に来る」と言うことによって、映画と文学が同じ芸術的体制に属していることを明らかにしています。この授業では、文学と映画の間にある。影響や翻案にとどまらない共鳴関係を明らかにしたうえで、文学を代表する作品の一つであり、しばしば「映画的」と形容されることもあるフロベールの『ボヴァリー夫人』を映画化した三つの作品(ルノワール、シャブロル、ソクーロフ)を、筋立ての映像化とは異なる観点から論じたいと思います。
8月3 日(月)、6日(木) イタリア 河村 英和
わたしたちがイメージするイタリア文化が定着したのは、近代になってから、とくに国家統一前後からでした。イタリアを代表する中世の詩人ダンテが、より高く評価されたのもじつは19世紀からで、古代ローマ風やイタリア・ルネッサンス風建築が、イタリア国外まで流布してゆくのも17世紀から19世紀にかけての近代でした。本講第1回目では、日本を含めイタリア国外にあるイタリア風建築について、第2回目では、イタリアの広場を飾る偉人像の設置ブームをみながら、イタリアを代表する歴史上の人物たちをみてゆきます。
本講義を履修することによって以下の能力を修得する。
1)あらゆる文化が等しく人間的で、なおかつそれぞれ独自の特徴をもつことが理解できる。
2)国際的視野から自国文化の特徴を考えられる。
3)国際社会の諸問題を多角的にとらえられる。
国際意識醸成、地域文化論、国際社会、イタリア、ドイツ、チェコ、フランス、ロシア、メキシコ、ブラジル
専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
授業ガイダンスのあと、7人の講師がオムニバス形式で7カ国について講義する。履修者は毎回リアクションペーパーを提出する。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | ドイツの文化(若松功一郎) | 各回の授業で指示する。 |
第2回 | ブラジルの文化(スエナガ エウニッセ) | |
第3回 | ドイツの社会(若松功一郎) | |
第4回 | ブラジルの社会(スエナガ エウニッセ) | |
第5回 | ロシアの文化(土田久美子) | |
第6回 | メキシコの文化(伏見岳志) | |
第7回 | ロシアの社会(土田久美子) | |
第8回 | メキシコの社会(伏見岳志) | |
第9回 | チェコの文化(宮崎淳史) | |
第10回 | フランスの文化(梶田裕) | |
第11回 | チェコの社会(宮崎淳史) | |
第12回 | フランスの社会(梶田裕) | |
第13回 | イタリアの文化(河村英和) | |
第14回 | イタリアの社会(河村英和) |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
特になし
講義資料はOCW-iで配布する。
次の二つの条件を満たした履修者のみ成績評価の対象となる。
1) 原則として講義を毎回視聴し、Googleフォームで出席カード&コメントシートを提出すること(40%)。
2) 第2Q末にレポート課題を提出すること(題目・分量・締切については7月中旬にメール等で指示。60%)。
特になし