この講義は哲学の一領域である倫理学の思考法を学ぶ機会を提供します。
哲学的営みはなによりもまず「問いの所在を発見する」あるいは「適切な問いを立てる」ことから始まります(しばしば「哲学は驚きから始まる」などと表現されます)。しかし、「善悪とはなにか」「正しい行為とはなにか」「さまざまな価値の源泉はどこにあるのか」などを闇雲に考えても答えは出そうにありません。
そこで、この講義では問題の発見の方法として私たちが日常で使ってしまいがちな紋切り型(クリシェ)から話を始めてみたいと思います。ここでいうところの紋切り型とは例えば「人間は所詮利己的な生き物だ」「これは差別ではなく区別だ」「神がいなければ全ては許される」といったものです。このような紋切り型の使用は、一見何かを言った気分にはなりますが、どのような前提を用いているか、種々の概念をどのように理解しているかは曖昧です。こうしたことを改めて問いの俎上に載せ、明晰にすることによって、道徳や価値、善悪などの捉え難い問題を論じることが可能になるはずです。私たちが日々直面している道徳的問いを議論可能なものへと差し戻す、この方法を習得することが目指されます。
哲学的思考の第一歩としてのクリティカルシンキングの技術を習得すること。哲学的な概念を使って現代の社会問題を考えることができるようになること。複数の立場を要約し、議論(アーギュメント)を構築できるようになること。
倫理学、概念分析、功利主義、価値、善悪
専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
スライドとレジュメ、板書を併用した講義形式で行いますが、場合によっては学生に意見を求めることもあります。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 心理的利己主義:人間は所詮利己的な生き物だ | 善い行為と動機の関係をめぐる議論を理解する |
第2回 | 差別論:これは差別じゃなく区別だ | 哲学的差別論における意図説、利益説、貶価説などの諸理論を理解する |
第3回 | 価値論:何が幸福かは自分次第だ | 幸福(福利)について快楽説、欲求充足説、客観的リスト説などの諸理論を理解する |
第4回 | 死の哲学:死んだらおしまい | 死の悪さに関する剥奪説と無関係説などの諸理論を理解する |
第5回 | 法と規範(1):嘘も方便 | 義務論と功利主義の対立構造を理解する |
第6回 | 法と規範(2):神がいなければ全ては許される | Why be moral問題と規範に従うことの関係を理解する |
第7回 | メタ倫理学:倫理に正解はない | メタ倫理学の基本的な対立点を理解する |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
毎回資料を配布します。
児玉聡(2020)『実践・倫理学』勁草書房
その他は随時、講義内で紹介します。
毎回のミニットペーパー(理解確認・400字程度)30%、期末レポート70%
特に前提とする知識はありませんが、受講者自身が積極的に図書館や書店に足を運び知的な関心の幅を広げるよう努めることが期待されます。