20世紀において娯楽として絶大な影響力をもった映画は、「映画スター」という特殊な表象を生み出した。スクリーンで輝きを放っていた「映画スター」はやがて、戦中期/占領期において、国民を主体的に軍国主義/戦後民主主義に包摂するための文化装置として利用され、人びとの振る舞いや思考を規定する決定的な役割を担った。また映画が斜陽化する一方で、高度経済成長期に家庭へと浸透していったテレビは、(映画スターとは異なる仕方で)アイドル/アーティストを生み出した。そのような日常生活に深く根差したメディアで構築される有名性も、現代の文化産業においては不可欠な存在である。本講義では、メディアに媒介されることによって、名声を獲得してきた女性(スター女優、女性アイドル/アーティスト)に焦点化し、その表象の歴史を概観する。
本講義のねらいは、各時代の社会・文化において欲望される形象からジェンダー/セクシュアリティの規範について理解を深め、映画、雑誌、テレビ、パソコン、モバイルなどで有名性がいかに構築されるのか、すなわち、20世紀以降のメディア文化を探究することである。
本講義を履修することで以下のような能力を習得する。
①スターを歴史的に捉えながら20世紀の映像史が理解できる。
②スター/アイドル/アーティストの表象史からジェンダー規範の変遷を理解することができる。
③私たちが生きるメディア文化の理解を深めることができる。
スター女優、アイドル、アーティスト、メディア、ナショナリズム、オリエンタリズム
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
実践的なセッションをともなう講義形式の授業。内容に関連する演習問題に取り組む時間も設ける。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 授業ガイダンスとイントロダクション | 初期映画と女優の誕生について理解する。 |
第2回 | 戦前のスター女優 | 入江たか子・山田五十鈴について学ぶ。 |
第3回 | 戦中のスター女優 | 映像視聴:『愛染かつら』(1938年) |
第4回 | モダンガールから軍国の女へ | 田中絹代とナショナリズムについて学ぶ。 |
第5回 | 戦中のスター女優 | 李香蘭のイメージを通じてナショナリズムについて考察する。 |
第6回 | 軍国主義/民主主義の女神 | 原節子を通じてナショナリズムについて理解する。 |
第7回 | 占領期におけるスター女優 | 映像視聴:『羅生門』(1950年) |
第8回 | ヴァンプ女優からグランプリ女優へ | 京マチ子を通じて占領期の文化とオリエンタリズムについて学ぶ。 |
第9回 | スター女優から国民的女優へ | 高峰秀子とポスト占領期について学ぶ。 |
第10回 | 大衆娯楽の女王 | 美空ひばりを通して1950年代のメディア文化を理解する。 |
第11回 | 日本映画の黄金時代におけるスター女優 | 若尾文子のパフォーマンスを通して大衆文化を捉える。 |
第12回 | アイドルから女性アーティストへ | 山口百恵/松田聖子を通して「アイドル」を理解し、椎名林檎/宇多田ヒカルの登場から「女性アーティスト」について考える。 |
第13回 | メディアミックスとリメイク的映画経験 | リメイク映画を観るという映画経験を考え、角川映画によるメディアミックスを理解する。 |
第14回 | 氾濫するアイドル | モーニング娘。/AKB48グループ/ももいろクローバーZの身体イメージを考察する |
第15回 | 有名性から見る現在のメディア文化論 | 授業の総括 |
指定しない。
藤木秀朗『増殖するペルソナ——映画スターダムの成立と日本近代』(名古屋大学出版会、2007年)
北村匡平『スター女優の文化社会学――戦後日本が欲望した聖女と魔女』(作品社、2017年)
北村匡平『美と破壊の女優 京マチ子』(筑摩書房、2018年)
西兼志『アイドル/メディア論講義』(東京大学出版会、2017年)
授業への参加度(40%)、期末試験(60%)
特になし。
kitamura.k.af[at]m.titech.ac.jp