岡倉天心(覚三)は文筆家、美術史家であり、東京藝術大学の設立に尽力し初代校長、ボストン美術館の日本・中国美術部長として、東アジアの美術についての国際的な啓発に尽力した。彼のThe Book of Tea(『茶の本』)は1906年に米国で英語で刊行され、茶の作法を通してアジア的精神の美をとらえた文明論として広く読まれた。しかし岡倉の仕事は単なる美術史ではなく、新興国日本の文化を称揚する政治的意図もあった。本書を批判的に読む作業を通して、参加者は日本に限らず多くの近代国民国家を支えてきた価値観を見いだすだろう。現代の私たちが抱える課題や、私たちが抱く意識的・無意識的な理想像や反・理想像(それらは私たちの生き方を方向づける)と、岡倉の主張とを比較し、私たち自身を深く知ることを、この講義で目指す。
近代国家建設期の日本の知識人が抱いていた日本人の理想像や、当時の国家的な課題(日本を列強の中に位置づけること)をも本書を通し確認するが、目的は日本の政治史や文化史の知識を増やすことにはなく、もちろん100年前の岡倉の価値観や、日本的価値観、とりわけ戦争犯罪や暴力性を手放しで礼賛することではけっしてない。
日本人の生き方について、そして自分自身の生き方について、多様な視点から考えたいという多様な学生の参加を期待する。とくに日本人以外の参加を歓迎する。
本書の英文は必ず読み、討議やプレゼンテーションやレポートも英文を基準にして行うこと。岡倉の英文は摸倣に値する優れたものであるし、日本文化を肯定的にも否定的にも吟味するための表現として有用である。
自分の理想像・価値観について、日本人岡倉天心の理想像と比較対照することにより自覚することができ、岡倉の英語から学んで、英語で簡単な説明ができるようになる。浅薄で脳天気な日本礼賛を批判する視点を得るとともに、意識してこなかった自分自身の価値観を掘り下げることができる。英語でのプレゼンテーションを通して、またグループでの共同作業を通して、コミュニケーションの力を養う。
岡倉天心、茶道、近代国家、価値観の自覚
専門力 | ✔ 教養力 | ✔ コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
初回にグループ分けを行い、そのグループで該当章を紹介・論評する。各自がテキストを予習しての要約や自身の見解をメモして講義に臨む(①)。グループによる各章紹介・論評②、講師による補足講義を受けて、グループで英語で討議する③。各回最後に、①に講義を踏まえた意見②+③を提出する。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | オリエンテーション/英語授業にどう取り組むか/岡倉天心の生涯と思想/ プレゼンテーショングループ分け | 特になし |
第2回 | 茶の本(第一章 人情の碗) | 該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
第3回 | 茶の本(第二章 茶の諸流) | 該当章について担当グループの内容紹介プレゼン。該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
第4回 | 茶の本(第三章 道教と神道) | 該当章について担当グループの内容紹介プレゼン。該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
第5回 | 茶の本(第四章 茶室) | 該当章について担当グループの内容紹介プレゼン。該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
第6回 | 茶の本(第五章 芸術鑑賞) | 該当章について担当グループの内容紹介プレゼン。該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
第7回 | 茶の本(第六章 花) | 該当章について担当グループの内容紹介プレゼン。該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
第8回 | 茶の本(第七章 茶の宗匠) | 該当章について担当グループの内容紹介プレゼン。該当箇所を事前に読み自分の見解を簡単なメモにまとめて講義参加。講義終了後に、講義内容とディスカッションを踏まえたコメントをつけて提出 |
『茶の本』は、複数刊行されている。以下のKindle版を推奨する。紙の本としては、岡倉天心『英文収録 茶の本』講談社学術文庫、1994年が最も手頃な価格で入手しやすく、【英文が収録されているので】推薦できる。★原著は英文であり、講義でも読むのは英文なので、日本語訳だけのものを買わないこと。
https://www.amazon.co.jp/Book-Tea-Kakuzo-Okakura-ebook/dp/B000JQUVMC/ref=tmm_kin_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=&sr=
講義中に示し、必要に応じて印刷物またはOCW-iにて配付する。
第2回冒頭に提出する自分自身の価値観をふりかえる課題(10%)、毎回講義後の授業要約コメントカード提出(35%)、当番回のプレゼンテーション(25%)、レポート(英文2000ワードまたは日本語5000字程度、30%)を、主として内容理解度を中心に評価する。なお欠席は減点対象(10%/回)とし、3回以上欠席したものには単位を与えない。
特に設けない
英語開講