言語学Cでは脳神経言語学を中心に、関連する認知言語学、統計言語学(自然言語処理)まで概観する。脳の構造・機能を通じて言語を捉えようとする科学の歴史から説き起こし、先人達がどのような測定方法で言語機能の神経基盤を解明してきたか、特に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)に重点を置きつつ紹介する。現代言語学の重要なテーマである、言語習得、多言語併用、言語障害(失語症)、意味処理、記憶・知覚・運動・情動などについては、基本から最近の研究動向まで紹介する。また脳神経言語学の研究に必須な計算プログラミングについて、導入的な解説を行う。更には担当者が管理運営を行っている生命理工学院・機能的磁気共鳴画像法(fMRI)施設を利用し、脳神経言語学の実験とデータ解析に必要な実験計画法、統計解析など様々な手法について導入的な授業を行う。
学生は言語と脳についての科学に触れることで、人間に関する教養と研究の基本的スキルを身につけることでき、この研究分野の楽しさ、難しさに気づくことができる。人間理解が深まることで、高度な情報社会、科学技術社会で生きてゆく際に自分にとっての羅針盤を作る上で一助となりうる。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1)脳神経言語学を通じて言語学と神経科学の基本的内容を理解することができる。
2)ヒトの脳の機能と構造を探究する言語実験について、今後必要な基本的スキルを獲得することができる。
3)言語学に必要な計算機プログラミングについて、今後必要な基本的スキルを習得することができる。
4)将来的には機能的磁気共鳴画像法(fMRI)施設を利用して言語実験を計画し実行することができるようになる。
言語, 言語学, 脳, 神経科学, 脳神経言語学, 脳画像解析, 磁気共鳴画像法, fMRI
✔ 専門力 | ✔ 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
学生には授業前にTOKYO TECH-OCW、あるいはTOKYO TECH-OCW-iにアップロードされた授業用教材をよく読み予習をすることが要求される。授業では、毎回トピックスを説明する前に、知識確認のため、前回の内容に関するクイズ1問に答えてもらう。第11回の授業は、生命理工学院・機能的磁気共鳴画像法(fMRI)施設を用いて行う予定である。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 言語と脳(1)--その科学の歴史 | ブロカ野、ヴェルニッケ野など言語領域の発見の歴史について説明できる |
第2回 | 言語と脳(2)--脳神経言語学とは | 言語の脳内処理過程を捉える脳神経言語学の概観について説明できる |
第3回 | 脳の解剖学的な構造と機能 | ヒトの脳の階層構造と解剖学的ラベリングについて説明ができる |
第4回 | 言語と脳の様々な計測 | 言語を処理する脳反応を実験計測する方法について説明ができる |
第5回 | 言語習得の脳神経基盤 | ヒトが生得的に有する言語能力の脳内表象について説明できる |
第6回 | 多言語併用の脳神経基盤 | 多言語を操るヒトの脳の機制に関する理論について説明できる |
第7回 | 脳と言語障害(失語症) | 言語能力の喪失(失語症)をもたらす様々な脳の異常について説明ができる |
第8回 | 意味処理の理論と脳神経基盤 | 脳内での言葉の意味処理に関する様々な理論を説明できる |
第9回 | 認知と言語: 記憶・知覚・運動・情動 | 脳内で言語処理がヒトの様々な能力とどう連動するか説明できる |
第10回 | 言語学と自然言語処理 | 計算機を利用して言語データを処理する基本的手続きについて説明できる |
第11回 | 言語学と脳画像解析(fMRI) | 脳機能画像法によって脳内の言語処理を探る方法について説明できる |
第12回 | 言語学と実験計画法 | 脳科学においてヒトを使った言語実験の基本的なデザインが説明できる |
第13回 | 言語学と統計解析 | 脳科学においてヒトを使った言語実験の基本的なデータ解析を説明できる |
第14回 | 言語学と人工知能 | 計算機を利用してヒトの言語活動を模倣する方法の基本手続きを説明できる |
第15回 | 言語学と複雑ネットワーク | 脳内の神経ネットワークや言語の意味ネットワークについて説明できる |
特に購入の必要はないが、以下を読むことを推薦する。
William O'Gradyら, Contemporary Linguistics, An Introduction. Chapter 11~14,Bedford/St.Martin's.
(言語学A,B,Cを通して受講する学生には強く推奨する)
Eric R. Kandelら, Principles of Neural Science, Mc Graw Hill, Part IX.
(生命理工学院の300番台授業、「基礎神経科学」及び400番台授業、「神経科学」でそれに沿った授業をするので、それらを受講する学生には強く推奨する)
Scott A. Huettel et al., Functional Magnetic Resonance Imaging, Second Edition, Sinauer Associates, Inc.
(系でMRIを専門にしたい学生には強く推奨する)
以下の教科書を踏まえた独自の講義資料を作成し、TOKYO TECH OCWまたはTOKYO TECH OCW-iよりダウンロードできるようにする。
William O'Gradyら, Contemporary Linguistics, An Introduction. Chapter 11~14,Bedford/St.Martin's
Eric R. Kandelら, Principles of Neural Science, Mc Graw Hill, Part IX
Scott A. Huettelら, Functional Magnetic Resonance Imaging, Second Edition, Sinauer Associates, Inc.
その他
毎回授業の始めのクイズ60%と期末テスト40%で評価する。
特になし。
Hiroyuki Akama: akama.h.aa[at]m.titech.ac.jp
授業担当教員のこの分野での研究活動に関心のある履修希望者は以下のURLを参照されたい。
https://www.researchgate.net/profile/Hiroyuki_Akama