" 日本から約5,000キロ離れた南太平洋の海上に、マライタ島という島がある。2008年3月、この島をはじめて訪れた私は、そこに住む「海の民」(アシ)と呼ばれる人々に出会った。この人々は、サンゴ礁が広がる浅い海に、無数の岩を積み上げて人工の島を造り、その上に暮らしてきた。その後約1年半に渡って「海の民」と暮らす中で、私は数々の驚くべき事実と出会うことになる。島から島へと移り住んできた祖先たちの歴史、キリスト教の宣教師との遭遇、祖先の化身であるサメとのやり取り、日本では決して見られないような農耕や漁撈の技術……
この例が示すように、文化人類学は、フィールドワークによる個別事例への密着を通して、世界各地で営まれる人間の文化・社会生活の多様性や複雑性を明らかにしてきた学問である。本講義では、古典から現在に至る文化人類学の流れを、講師自身の調査地をも例にとりつつ、「社会」、「コミュニケーション」、「歴史」、「自然」といったキーワードに即して概説する。後半では、近年盛り上がりを見せている科学技術に関する人類学的研究を取り上げ、科学技術と文化人類学がどのように結び付きうるのかを探る。講義は全体として出席・参加重視で行い、課題文献や映像を題材にしたグループ・ディスカッションも行う。
本講義のねらいは、第一に、人間の文化・社会生活の多様性や複雑性に対する人類学的な視点を身に付けてもらうこと、第二に、自然環境や科学技術をめぐる現代的な諸問題に対して、人類学的に考える力を身に付けてもらうことにある。"
"本講義を履修することによって、以下の能力を習得する。
1)人間の文化・社会生活の多様性や複雑性を、文化人類学的な視点から理解できるようになる。
2)自然環境や科学技術をめぐる現代的な諸問題、たとえば地球温暖化や環境汚染について、文化人類学的視点から考え、自らの意見を表明できるようになる。
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文化、社会、歴史、自然、科学技術
専門力 | ✔ 教養力 | ✔ コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
1つのテーマに対して2~3回の講義を行い、その間に課題文献や映像を題材にしたグループ・ディスカッションを挟む。また、毎回の授業の終わりに感想・質問票を提出してもらう。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | イントロダクション1 | 文化人類学とは根本においてどのような学問かを説明できるようになる |
第2回 | イントロダクション2 | 人類学的フィールドワークとはどのようなものか、説明できるようになる |
第3回 | 「社会」を考える1 | 親族関係論など、人類学の古典的な「社会」観を説明できるようになる |
第4回 | 「社会」を考える2 | 贈与論など、人類学的「社会」観の展開について説明できるようになる |
第5回 | 「コミュニケーション」を考える1 | 構造主義の基本的な考え方について説明できるようになる |
第6回 | 「コミュニケーション」を考える2 | 人類学的な言語・コミュニケーション論について説明できるようになる |
第7回 | フィルム・セッション | 映像資料を見て、それに関する自身の意見を表明できるようになる |
第8回 | 「歴史」を考える1 | 文化人類学における歴史の位置付けについて説明できるようになる |
第9回 | 「歴史」を考える2 | ポストコロニアリズムの人類学への影響について説明できるようになる |
第10回 | 「自然」を考える1 | 焼畑農耕などに見られる自然環境との関わりを説明できるようになる |
第11回 | 「自然」を考える2 | 人間と動物の多様な関係について人類学的に説明できるようになる |
第12回 | 「自然」を考える3 | 「自然/文化」概念の現代的な問い直しについて説明できるようになる |
第13回 | 科学技術を考える1 | 科学技術に関する人類学的研究の概要を説明できるようになる |
第14回 | 科学技術を考える2 | 科学技術と人類学の関係について自分の意見を表明できるようになる |
第15回 | 科学技術を考える3 | 人類学的視点を今後のキャリアでどう役立てうるか表明できるようになる |
特定の教科書は使用しない。
参考文献は講義中に随時指示する。
毎回の感想・質問票(グループ・ディスカッションに基づくものを含む。40%)
期末レポート(60%)
事前に身に付けているべき知識や技術はない。ただし、一見自分とは無関係や地域や現象に対しても関心を抱くオープンな姿勢は必須。