本講義では,自然水(河川,湖沼,海水等)や処理水(上水,下排水)を対象とし,水中に存在する種々の物質についての化学反応プロセスを取り扱う。はじめの5回では平衡論や反応速度論等の化学反応と扱うための基礎について学習し,続く5回では酸塩基や錯形成,酸化還元反応等の水中で生じる具体的な化学反応を取り上げる。最後の5回では,上述の化学反応が実水域におけるどのような現象に適用可能なのか?栄養塩の流域物質循環や,浄水処理での塩素消毒,自然水中での有機汚染物質等を例に紹介する。
世界各国において,水域は水質や生態系を健全に管理・保全することにより、良質な水資源を提供する場としての機能や、豊かな生態系・水産資源を育む場としての機能を、将来にわたり持続的に発揮していくことが期待されている。本講義では,流域での水質形成における人為的影響(下排水や気候変動等)や処理水中での水質変換を含めた種々の反応を定量的に捉えることで,人間活動が水質や水生生態系へ及ぼす影響を適切に評価していく力を養うねがいがある。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1)水中における反応プロセスを支配する基礎概念や理論(平衡論,反応速度論,非理想系)が理解できる。
2)自然・処理水中で生じる種々の反応プロセス(酸塩基,錯形成,酸化還元,吸着反応等)を理解することができる。
3)代数・幾何学的解法または,数値シミュレーションツールを使用することで,自然・処理水中における水質形成の評価予測を定量的に行うことができる。
4)下排水や気候変動を含めた人間活動が河川,湖沼,沿岸域水質に及ぼす影響を理解することができる。
平衡論,反応速度論,酸塩基,錯形成,栄養塩,浄水処理,塩素消毒
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
毎回授業の最後に小テストを行います。また,授業中に課題を出しますので,レポートとして提出してください。講義の最後に期末試験があります。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | イントロダクション | 水質化学分野の位置づけと水質化学で使用する単位について理解する。 |
第2回 | 環境水中における化学組成 | 自然水や処理水中に存在する元素や分子の化学組成を理解する |
第3回 | 熱力学に基づく平衡論 | エネルギーと平衡反応の関係性について理解する。 |
第4回 | 理想溶液と非理想溶液の特徴 | 活量と濃度の関係性がイオン強度にどのような影響を受けるのかを理解する。 |
第5回 | 反応速度論の基礎 | 反応速度論における素反応と複合反応の記述法とその解法を理解する。 |
第6回 | 酸塩基反応の化学 | pHと酸解離平衡の関係性を理解する。 |
第7回 | 炭酸の化学 (1) | 炭酸平衡とアルカリ度、pHの関係を理解する。 |
第8回 | 炭酸の化学 (1) | 開放系、閉鎖系における炭酸平衡と炭酸の化学種を理解する |
第9回 | 金属と錯形成反応 | 金属イオンと配位子の結合反応機構について理解する。 |
第10回 | 固相反応と溶解度 | 固相反応における沈殿・溶解反応や表面吸着反応を理解する。 |
第11回 | 酸化還元の平衡反応と速度論 (1) | 酸化還元反応がどのような反応式(ネルンスト式など)で表記されるのか,またその反応機構を理解する。 |
第12回 | 酸化還元の平衡反応と速度論 (2) | 酸化還元電位とpHの関係性から種々の環境中において優先する化学種を算出できる。 |
第13回 | 溶存酸素の化学 | 自然水中の生物呼吸に欠かすことのできない溶存酸素を制御する種々の反応を理解する。 |
第14回 | 浄水処理における塩素消毒の化学 | pHが塩素の反応性に及ぼす影響や消毒副生成物の反応について理解する。 |
第15回 | 窒素・リンの化学と栄養塩物質循環 | 栄養塩として重要である窒素とリンの水環境中での化学動態と循環について理解する。 |
Water Chemistry: An Introduction to the Chemistry of Natural and Engineered Aquatic Systems, Oxford Univ Pr, 2011
- Aquatic Chemistry: Chemical Equilibria and Rates in Natural Waters, 3rd Edition by Werner Stumm, James J. Morgan, Wiley, 1995
- Principles and Applications of Aquatic Chemistry by François M. M. Morel, Janet G. Hering, Wiley, 1993
本講義における成績は,授業中での小テスト(20%),レポート(40%),期末試験(40%)により評価する。
特になし