地球上に存在するさまざまな生態系には,温暖化に代表される地球規模のストレス要因に,さまざまな人為的な要因によるローカルなストレス要因が重なる形で複合的に作用しており,その生態系の劣化の進行が顕著になりつつある.したがって,劣化のさらなる進行を食い止め,ひいては再生させていくための戦略論が必要になる.そのためには,対象とする生態系が維持されている基本的メカニズムを理解した上で,生態系への複合的な環境負荷の実態とそれによる生態系の応答過程のダイナミクスを定量的に明らかにする必要がある.そして,環境負荷の生成要因であると同時に制御主体としての側面も有する人間・社会システムの有り様と,生態系との相互作用過程を明らかにし,それに基づいて,resilientでsustainableな社会-生態統合系(Socio-Ecological System;SES)としてのあり方を模索する必要がある.
本講義では,沿岸生態系を主たる対象として,上記の様々な観点から生態系保全論のあり方を論じる.その際,一般的に生態環境が本質的にきわめてシステム的であり,しかもオープンシステムとしての様相を強く持つことから,個別対象・アプローチのみによる生態系保全論には限界があり,必然的に,統合的・多角的・広域的な取組みが不可欠となることを,様々な事例を通じて示す.受講学生は,一連の講義や具体的なテーマを選定した上でのグループ討議を通じて,そのような観点からの問題構造の把握や解決策の提案の能力を養うことを目標とする.
本講義を履修することによって次の能力を修得する.
(1) グローバル・ローカル複合的環境負荷の下で劣化が進行しつつある沿岸生態系の現状を,その具体的な因果関係とともに理解出来るようになる.
(2) そのような沿岸生態系の保全戦略に向けてのいくつかの主要なポイントについて理解するとともに,社会-生態統合系フレームから問題を捉えることによって,レジリエンスの高い持続可能なシステムを実現していくことの重要性と課題について理解出来るようになる.
(3) 個別対象・アプローチのみによる生態系保全論には限界があり,必然的に統合的・多角的・広域的な取組みが不可欠となることを,具体的な事例を通じて理解出来るようになる.
生態系保全,地球規模環境変動,ローカル人為的環境負荷,社会-生態統合系,resilient & sustainable system,統合的・多角的・広域的アプローチ
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
第1回~第12回は通常の講義スタイルで授業を進め,第13から第15回ではグループに分かれて講義内容に関わる具体的なテーマを設定し,そのテーマに関する情報収集・ディスカッションを行い,成果をまとめた発表会を実施する.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | イントロダクション,生態環境システムの特徴/危機にある沿岸生態系 | 生態環境システムの基本的特徴と,グローバル・ローカル複合的環境負荷の下で劣化が進行しつつある生態系の現状を,沿岸生態系を中心に概観する |
第2回 | 沿岸生態系の基礎理論その1―沿岸海洋生態系の基礎生産・物質循環 | 沿岸生態系の基本的な特徴を,基礎生産や物質循環の観点から理解する |
第3回 | 沿岸生態系の基礎理論その2-陸上生態系との違い,生物多様性とその重要性 | 沿岸生態系の特徴を陸上生態系との対比からさらに詳しく把握するとともに,生物多様性の重要性について理解する |
第4回 | 閉鎖性内湾域の生態環境問題 | 東京湾や有明海など,閉鎖性の強い内湾域での環境問題について,実例とともに理解する |
第5回 | 干潟・藻場・マングローブ生態系の特徴と環境問題 | 干潟・藻場・マングローブ生態系の特徴を保全上の課題とともに理解する |
第6回 | サンゴ礁生態系の特徴と環境問題:その1 | サンゴ礁生態系の特徴と劣化の現状について,劣化をもたらす様々な原因とともに理解する |
第7回 | サンゴ礁生態系の特徴と環境問題:その2 | グローバル・ローカル複合的環境ストレスのもとでのサンゴ礁生態系の保全戦略に関わる課題を,事例を通じて理解する |
第8回 | アジア・オセアニアの沿岸生態系に関わる環境問題 | 生物多様性が極めて高い豊かな沿岸生態系を有するcoral triangle域を中心に,生態系劣化の現状とその原因・課題について理解する |
第9回 | 沿岸生態環境システム保全・再生計画の事例 | 国内での沿岸生態系保全・再生の取り組みに関して,我が国最大のサンゴ礁域である石西礁湖での事例を中心に理解する |
第10回 | 沿岸生態環境システム保全・再生に向けての基本フレーム:その1 | 沿岸生態環境システム保全・再生の基本理念,複合ストレスの包括的把握と評価,生態系ネットワークとシステム回復力,海洋保護区の考え方などについて理解する |
第11回 | 沿岸生態環境システム保全・再生に向けての基本フレーム:その2 | 再生技術の可能性と限界,順応的管理,環境モニタリングの重要性,普及・啓発・環境教育・人材育成の重要性について理解する |
第12回 | 社会-生態統合系(Socio-Ecological System;SES)フレームから見た保全戦略 | 社会-生態統合系フレームから生態環境問題を捉えることの重要性を理解するとともに,レジリエンスの高い持続可能なシステムの実現に向けての課題を理解する |
第13回 | グループディスカッション1 | グループ発表についてのテーマ決めと関連情報収集,ディスカッションを行う |
第14回 | グループディスカッション2 | テーマに関するさらなる情報収集とディスカッション,発表準備を行う |
第15回 | グループ発表会 | グループディスカッションの成果をまとめた内容について発表する |
なし
各回の講義資料等は事前にOCW-iにアップする.
グループ発表会での発表内容をプレゼンテーションのわかりやすさや質疑応答の内容・活発さも踏まえて評価する.また,グループ発表の内容をまとめたレポート(グループごとに提出)の評価を含めて,総合的な成績評価を行う.
なし
灘岡和夫: nadaoka.k.aa[at]m.titech.ac.jp (03-5734-2589)
メールで事前予約すること