本講義では,代表的な高分子物質の固体状態において形成する結晶や階層構造,および相転移現象と結晶化現象に関する基礎知識を提供する。また,高分子の固体構造を調べるための具体的な実験法と解析法の原理について説明し,高分子固体が示す特徴的な熱的,電気的,および光学的性質に関する物理化学的基礎を提供する。
高分子物質を材料として用いるとき,その特徴的な固体構造と物性を理解することは必須である。高分子固体の構造は、分子の一次構造と分子間相互作用、そして温度や圧力などの外部環境の影響を受けて、様々の特徴的な集合体構造を形成する。固体状態において高分子が形成する構造には、どのような特徴があるか、どのような測定方法で調べることができるかを学ぶ。そして、高分子が固体状態で示す熱的、電気的、および光学的性質が、どのように固体構造と関係しているかを学ぶ。また、本コース以外の学生には、高分子の固体構造と物性の基礎について触れる機会を提供することを目的する。
本講義は高分子科学をバックグラウンドに持たない学生を対象としており,高分子物理のうち,特に固体構造物性についての基礎的知識を身につけることを目標とする。具体的には次の能力を修得する。
1.高分子結晶の階層構造を説明できる
2.高分子構造、結晶化度と配向度の測定法と解析法を説明できる
3.代表的な高分子の結晶構造と転移挙動を説明できる
4.高分子結晶の力学物性と結晶化挙動を説明できる
5.相分離構造と配向構造について説明できる
6.融解現象とガラス転移について説明できる
7.電気的性質の原理と現象について説明できる
8.光学的性質の原理について説明できる
階層構造,ラメラ,球晶,伸び切り鎖結晶,X線回折,振動分光法,NMR,散乱法,顕微鏡,配向度,結晶化度,高分子結晶,ヤング率,結晶化,ミクロ相分離構造,融解,ガラス転移,圧電性,誘電分散,複屈折
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
教科書に従って講義を進める。毎回の講義のはじめに復習を兼ねて前回の演習問題の解答を解説する。各講義最後の15分で、講義内容に関する演習問題を行う。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 高分子の固体構造 -基礎と集合体の階層構造 | 高分子結晶の階層構造,折りたたみ鎖結晶(ラメラ、球晶),伸び切り鎖結晶の説明 |
第2回 | 高分子の構造にかかわる実験法と解析法 -回折法,振動分光法,核磁気共鳴,散乱法,顕微鏡,配向度と結晶化度 | 高分子構造の測定手法,および結晶化度と配向度の測定解析方法の説明 |
第3回 | 代表的な高分子の構造および相転移現象 -ポリエチレン,ポリエステル,ポリイミド,強誘電性高分子,剛直高分子 | 代表的な高分子の結晶構造と結晶構造転移の説明 |
第4回 | 高分子結晶の物性と 結晶化現象 -ヤング率,溶融結晶化,溶液結晶化,成型過程における結晶化 | 高分子結晶の力学物性と結晶化挙動の説明 |
第5回 | ブロック共重合体,高分子液晶,高分子錯体の構造と相転移 -ミクロ相分離構造,配向構造,溶媒和構造,固相転移 | 集合体構造の特徴と相転移の説明 |
第6回 | 高分子の熱的性質 -熱測定法,融解現象,ガラス転移 | 高分子の融解とガラス転移の説明 |
第7回 | 高分子の電気的性質と光学的性質I -誘電分散,圧電性,強誘電性,導電性,電子物性 | 電気的性質と光学的性質の原理の説明 |
第8回 | 高分子の電気的性質と光学的性質IIと総合演習 -屈折率、複屈折、光伝送 | 電気的性質と光学的性質の現象の説明と理解度評価 |
高分子学会編『基礎高分子科学』(東京化学同人)ISBN978-4-8079-0635-2 第4章と第5章第2,3節
参考書:北野博巳ほか著『高分子の化学』三共出版,渡辺順次編『分子から材料まで どんどんつながる高分子 断片的な知識を整理する』丸善
高分子の固体構造と物性の基礎と構造の実験解析方法の理解度を、課題演習(30%)と期末試験(70%)の配点で評価する。
200番台と300番台の高分子物理関係科目を受講した学生並びに高分子科学をバックグラウンドに持つ学生は受講できない。
宍戸厚:ashishid[at]res.titech.ac.jp
長井圭治:nagai.k.ae[at]m.titech.ac.jp
(宍戸) 授業終了後、またはメールにより事前予約すること。
(長井) メールにより事前予約すること。