本講義では、公共システムを設計するための基礎となる代表的な理論についてのオリジナル文献を読む。個人合理的に行動することが、社会的に望ましくない状況に陥ってしまう事がある。この時、個人の自発的意思を超えた公共的な介入が必要になる。こういった状況は、集合行為ジレンマとしてゲーム理論によって定式化されており、公共経済学、法と経済学、組織の経済学、ガバナンスの経済学、公共社会学、公共哲学など多くの人文、社会科学の学際的研究対象になってきている。
本講義のねらいは、本講義では、それらの成果を踏まえ、集合行為ジレンマを克服する様々なアプローチとそれを支えている理論について理解するための統一的な枠組みを提供することにある。それによって、現存する公共システムを分析的に評価するための理論を習得することにある。
本講義は、集合行為ジレンマとそれを克服するための制度について理解を深め、公共システムを設計する際の理論的枠組を習得することを目標とする。まず初めに、公共介入の問題を集合行為ジレンマによって定式化する。公共財、外部性、CPR、慈善といった1次ジレンマ問題が、なぜ個人合理的に行動するだけでは効率的に供給されないのか理解を深める。続いて、1次ジレンマ問題を解決するために必要となる制度を構築し維持すること自体も、2次ジレンマと呼ばれる集合行為ジレンマ問題となっていることを学ぶ。続いて、2次ジレンマ問題を解決するために現在模索されているアプローチ、特に自己組織的集合行為、権利経済学、組織ガバナンスの経済理論、その応用であるニューパブリックマネジメント、準市場についての理論を習得する。最終的には、こういった理論をもとに、公共システムを分析的に評価し、設計するための応用力習得を目標とする。
自己組織的集合行為、権利経済学、組織ガバナンスの経済理論、ニューパブリックマネジメント、準市場
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | ✔ 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
各回テーマの主要文献を、オリジナルテキストで読み、討論を行う
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 公共介入の必要性と集合行為ジレンマ | 公共問題を集合行為問題として定式化し、公共介入の正当性と有効性について説明できるようになる |
第2回 | 制度設計と2次ジレンマ | 2次ジレンマ問題として制度供給問題を説明できるようになる |
第3回 | 制度均衡とレジーム | 制度と個人選好の間に均衡が生じるメカニズムについて理解し,公共介入レジームの類型について説明できるようになる |
第4回 | 直接規制と取引コスト | 直接規制に関する経済理論について理解し,公共問題の解決に応用できるようになる |
第5回 | 所有権アプローチとキャップアンドトレード | 所有権アプローチについて理解し,公共問題の解決に応用できるようになる |
第6回 | LCPレジームと自己組織的集合行為の理論 | LCPレジームの理論を理解し,公共問題の解決に応用できるようになる |
第7回 | LCPレジームの多様性と自己組織ルールの枠組み | 多様なLCPレジームを記述するための枠組みを理解し,事例研究に応用できるようになること |
第8回 | フォーク定理と関係契約、社会関係資本 | フォーク定理について理解し,関係契約及び社会関係資本が公共問題解決に果たす役割を説明できるようになる |
第9回 | 経路依存性と制度変化のダイナミックス | 経路依存性について理解し,制度変化のダイナミックスについて説明できるようになる |
第10回 | レントシーキングと官僚制論 | 情報の非対称を利用したレント追及行動から官僚制の弊害を説明できるようになる |
第11回 | 組織ガバナンスの経済理論 | 関係特殊性と契約不完備性について理解し、組織ガバナンス設計に応用できるようになる |
第12回 | 成果主義と分権改革 | ニューパブリックマネジメントの理論を理解し,官僚制に変わる組織設計に応用できるようになる |
第13回 | ヘドニズム・デザインの原理とユーダモニズム・デザインの原理 | ヘドニズムとユーダモニズムの違いを理解し、制度設計に及ぼしてきた影響についていて説明できるようになる |
第14回 | 準市場の有効性と効率性 | 準市場の理論を理解し、公共問題の解決に応用できるようになる |
第15回 | 不純な利他主義と慈善行動 | 慈善行動の経済理論を理解し、公共財供給における利他心の影響を説明できるようになる |
毎回のテーマに合わせて、オリジナルテキストのコピーを配布する
Ostrom, E., 2005, Understandig Institutional Diversity, Princeton University
毎回の課題 40% 期末レポート 60%
特になし