2016年度 神経科学   Advanced Neuroscience

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開講元
生命理工学コース
担当教員名
一瀬 宏  鈴木 崇之  宮下 英三  赤間 啓之 
授業形態
講義     
メディア利用科目
曜日・時限(講義室)
月1-2(J221,W831)  木1-2(J221,W831)  
クラス
-
科目コード
LST.A410
単位数
2
開講年度
2016年度
開講クォーター
4Q
シラバス更新日
2016年4月27日
講義資料更新日
-
使用言語
英語
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講義の概要とねらい

高次神経機能の基盤となる脳の発生や軸索伸長、神経回路形成のメカニズムを学習する。次に、運動が脳内情報処理システムによりどのように制御されているか、不随意運動と随意運動に分けて解説する。また、ヒトに特徴的な言語を司る脳部位について知るとともに、非侵襲的脳機能イメージングの手法について解説する。さらに、脳の機能不全により起こる神経精神疾患の病態を紹介し、発症メカニズムについて最新の知見を含めて講義する。
低年次の授業で行う「基礎神経科学」の発展形として、同じく「カンデル神経科学」という教科書をもとに、より高度な脳の正常機能とその破綻を概説する。前半部では、神経分化・神経回路形成の分野において、この20年で次々と遺伝子が発見され、タンパク質の相互作用によって発生における神経細胞の挙動が明らかになってきたことを理解する。種の違いを超えた共通原理の理解をめざす。運動制御の分野では、眼球や歩行運動など身近な行動制御を例に感覚入力と運動出力の間に介在するフィードバックメカニズムなどを理解する。言語の分野では、言葉を話すという誰でもなじみのある行動を通して、その行動の奥底に潜んでいる脳神経系の複雑な演算処理の一端を理解することを目指す。fMRIという最先端のテクノロジーで何が出来るのかということを理解する。ここまでは、脳が正常に働いた場合にフォーカスしてきたが、最後の部分では、脳の機能が異常となった場合に、どのような病気になり、どのような症状を引き起こすのかを理解する。このことによって、今社会的に問題となっている神経疾患の単純ではない発症機序をより正確に理解し、その解決に向けた糸口を探す。

到達目標

神経科学は近年飛躍的な進歩を遂げており、高次神経機能や精神神経疾患の理解も進んでいる。本授業では、基礎神経科学の授業で培った神経科学の基礎を基にして、より複雑な高次神経機能や脳の発生発達過程の分子メカニズムについて学習する。さらに、脳を理解することは我々自身の意識や意志決定の基盤を理解することであり、一般社会にも大きく貢献する可能性のある学問であることを理解する。具体的には、(1)神経発生、回路形成、神経接続の形成・収れん、中枢神経系の再生(2)脊髄反射、眼球運動、歩行運動、姿勢制御、随意運動などの運動機能とその制御(3)言語機能と獲得、fMRIによる脳内イメジング手法(4)統合失調症、気分障害、神経変性疾患などの神経疾患の理解、学習と記憶のメカニズムについて、広範な知識の獲得と、将来神経関連の課題にぶつかった時の索引的な引出しを準備しておくことを目的としている。

キーワード

脳、神経系、神経回路形成、シナプス可塑性、中枢神経の再生、脊髄反射、眼球運動、歩行運動、姿勢制御、随意運動、不随意運動、言語中枢、神経疾患、学習と記憶、精神障害

学生が身につける力(ディグリー・ポリシー)

専門力 教養力 コミュニケーション力 展開力(探究力又は設定力) 展開力(実践力又は解決力)

授業の進め方

毎回の講義序盤で前回のまとめを行い、今回の要点を問題形式で示す。講義の終盤で序盤で示した要点を教示するとともに、必要に応じて質問・議論を行う。各回の学習目標をよく読み、予習・復習を行われたし。

授業計画・課題

  授業計画 課題
第1回 神経発生と行動の発現1- 神経系のパターン形成と神経細胞の分化 種々の多様な神経細胞に分化していく過程を具体的なタンパク質とその制御レベルの違いを例を挙げながら説明できる。核転写から非対称分裂、細胞間コミュニケーションから細胞運命の獲得の系譜を説明できる。(カンデル神経科学第52,53章参照)
第2回 神経発生と行動の発現2- 軸索の伸長とシナプス形成 神経細胞からどのような手がかりを頼りに軸索は伸びていき、到達したと認識し、シナプスを形成するのか、具体的なタンパク質を例示しながら説明できる。(カンデル神経科学第54,55章参照)
第3回 神経発生と行動の発現3- シナプス結合の精緻化 発達過程でシナプスは洗練化され、神経活性依存的な競合や刈込が起こる。その現象の背後にあるメカニズムを分子の言葉で説明できる。(カンデル神経科学第56章参照)
第4回 神経発生と行動の発現4- 損傷を受けた脳の修復 中枢神経系は損傷後の再生が起こらない。それはなぜか?近年解明された分子メカニズムを説明できる。(カンデル神経科学第57章参照)
第5回 運動制御1- 運動の構成と脊髄反射 運動における入力、出力、フィードバックの関係性を構成要素として理解する。また、脊髄反射の神経メカニズムを理解する。(カンデル神経科学第33、35章参照)
第6回 運動制御2- 眼球運動 眼球運動による視線制御の神経メカニズムを理解する。ンデル神経科学第39章参照)
第7回 運動制御3- 歩行運動と姿勢制御 歩行運動を司る中枢パターン発生器や姿勢制御のメカニズムを複数の感覚モダリティからの情報統合という視点から理解する。(カンデル神経科学第36、41章参照)
第8回 運動制御4- 随意運動 適応的な随意運動のを神経メカニズムを理解する。(カンデル神経科学第37、38章参照)
第9回 言語と脳1- 言語中枢と分散処理 言語の基本要素としての複数の機能レベルを理解し、言語処理に関わる複数の脳領域、特に言語野とされるブローカ野とウェルニッケ野の構造と機能について理解する。(カンデル神経科学第60章参照)
第10回 言語と脳2- 言語の獲得と喪失 幼児の脳がどのように言語を獲得するか、言語獲得の普遍的なパターンを理解する。また、人の脳はどのように複数の言語を習得するか、脳の障害により、失語症はどのようにして発生するかを理解する。(カンデル神経科学第60章参照)
第11回 言語と脳3- fMRIによる脳機能解析 fMRIの機能的イメージングにおける原理と機材、その有効性と限界について理解する。東工大生命理工学院のMRI施設の利用法について知る。(カンデル神経科学第20章参照)
第12回 情動の仕組みと神経疾患1- 統合失調症 統合失調症の診断の仕方、予想される遺伝的要因と非遺伝的要因を理解する。神経解剖学的な異常が統合失調症の原因であるという学説も紹介し、現在までに分かっている統合失調症の知見を理解する。 (カンデル神経科学第62章参照)
第13回 情動の仕組みと神経疾患2- 気分障害と不安障害 ここではうつ病と躁うつ病が顕著な例として知られる気分障害と不安障害について概説する。ここでも遺伝的な要因と非遺伝的な要因が考えられ、恐れをうまく処理できないという共通の傾向があることを理解する。それらの病気に対する薬剤による治療法も理解する。(カンデル神経科学第63章参照)
第14回 情動の仕組みと神経疾患3- 学習と記憶 学習と記憶に関する膨大な知見をすっきりとまとめて理解することを目的とする。短期記憶と長期記憶、顕在記憶と潜在記憶、エピソード記憶や意味記憶、作業記憶や空間記憶など、様々な記憶の形態を理解し、その脳内での貯蔵・呼び出しのされ方の違いを理解する。(カンデル神経科学第65章参照)
第15回 情動の仕組みと神経疾患4- 神経変性疾患 神経変性疾患の病理学的な知見、分子生物学的な知見を理解する。そのために利用される神経疾患モデル動物の有用性、その研究が到達する成果と限界、最近の発症メカニズムの分子基盤の解明から開かれる新しい療法の開発の可能性などを理解する。(カンデル神経科学第44章参照)

教科書

特になし

参考書、講義資料等

Eric R. Kandel et al., カンデル神経科学 (Principles of Neural Science), 日本語版監修 金澤一郎, 宮下保司, メディカル・サイエンス・インターナショナル

成績評価の基準及び方法

各担当教官の担当期間最後の授業に小テストを行い、25%ずつの配点を集計して評価する。小テストは英語で行う。

関連する科目

  • LAH.T309 : 言語学C
  • LST.A346 : 基礎神経科学
  • HCB.M461 : 脳の計測
  • LST.A362 : 進化・発生学
  • LST.A406 : 分子発生・進化学

履修の条件(知識・技能・履修済科目等)

基礎神経科学(LST.A346)を履修していること、または同等の知識があること。

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