本講義は「行動」のための神経システムを包括的に解説する。脳、神経細胞、遺伝子の各階層から見た「行動」を概説したのち、イオンチャネル、膜電位、シナプス、神経伝達物質など、神経細胞に関する細胞・分子生物学的な知見を解説する。さらに、知覚(体性感覚、視覚)、認知から行動に至る末梢神経系や中枢神経系の神経基盤を解説する。
本講義の目的は、我々が外界の刺激を知覚し、それに応答する行動を行うための基本的な神経機構の理解を深めることである。
脳科学は神経科学を基盤として計算科学、分子生物学、電気生理学などの学際的な分野として発展を遂げている。脳科学を研究するためには神経科学の幅広い知識が必要である。受講生は、「カンデル神経科学」という世界標準の教科書に基づいた講義を受けることができる。受講生は、脳に対する興味を抱き、自ら積極的に学習していくことが期待されている。本講義修了時には、より高度で専門的な脳科学・神経科学を学ぶために必要な基礎知識を習得することができる。
脳科学、神経科学、行動、知覚、認知
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
「カンデル神経科学」の対応するセクションを講義担当教員の実験データを交えながら解説する。
授業計画 | 課題 | |
---|---|---|
第1回 | 脳、神経細胞、神経回路、遺伝子と行動 「カンデル神経科学」第1章から第3章を概説する。 | 脳各部位の基本的な構造とその機能を理解し、さらに遺伝子が行動に果たす基本的な役割を理解すること。 |
第2回 | 神経系の細胞とイオンチャンネル 「カンデル神経科学」第4章と第5章を概説する。 | 神経系を構成する細胞の構造とイオン・チャネルの構造と機能を理解すること。 |
第3回 | 静止膜電位 「カンデル神経科学」第6章を概説する。 | 神経細胞における静止膜電位と電気的特性を理解すること。 |
第4回 | 活動電位 「カンデル神経科学」第7章を概説する。 | 神経細胞における電気信号の発生と伝達の機構を理解すること。 |
第5回 | シナプス伝達および中枢神経系のシナプス統合について「カンデル神経科学」第9章、10章を概説する。 | シナプス伝達機構と、シナプスによる入力情報の統合が行われるメカニズムを理解すること |
第6回 | セカンドメッセンジャーによるシナプス伝達修飾と神経伝達物質について「カンデル神経科学」第11章、12章を概説する。 | セカンドメッセンジャーによるシナプス伝達の修飾機構や神経伝達物質の放出機構について理解すること。 |
第7回 | 神経伝達物質とシナプス伝達の異常により生じる疾患 「カンデル神経科学」第13章、14章を概説する。 | 神経伝達物質とシナプス伝達異常により生じる疾患の発症機構を理解すること。 |
第8回 | 感覚情報を統合する大脳基底核の役割と神経変性疾患の発症機構 「カンデル神経科学」第43章、44章を概説する。 | 大脳基底核の役割と神経変性疾患の発症機構について理解すること。 |
第9回 | 中枢神経系:知覚と運動の機能的構造 「カンデル神経科学」第15、16章を概説する。 | 知覚と運動のための中枢神経系の機能的構造を理解すること。 |
第10回 | 知覚の神経基盤:体性感覚と視覚 「カンデル神経科学」第22章、25章を概説する。 | 体性感覚と視覚の受容から知覚にいたる神経機構を理解すること。 |
第11回 | 運動制御のメカニズムと脊髄反射 「カンデル神経科学」第33章、35章を概説する。 | 運動制御のメカニズムと脊髄反射について理解すること。 |
第12回 | 随意運動における一次運動野と運動前野、連合野の役割 「カンデル神経科学」第37章、38章を概説する。 | 随意運動における一次運動野、運動前野、連合野の役割を理解すること。 |
第13回 | 認知の神経基盤 「カンデル神経科学」第18章、20章を概説する。 | 認知機構と認知機能イメージングを理解すること。 |
第14回 | 神経情報の無意識的-意識的処理 「カンデル神経科学」第48章、51章を概説する。 | 感情、情動、睡眠、夢などの神経機構を理解すること。 |
第15回 | 高次認知機構 「カンデル神経科学」第60章、65章を概説する。 | 言語、学習、記憶の神経機構を理解すること。 |
なし。
Principles of Neural Sciences, Fifth edition, edited by Erick R. Kandel et al. McGraw Hill, 2013. 「カンデル神経科学」として2014年に日本語訳も出版されている。
受講生は講義資料をOCWからダウンロードすること。
神経科学の基本的知識の理解度を、講義毎の小テストまたは課題と、学期末に行う筆記試験により評価する。
特になし。