生命現象の素過程を、物理学の基本的な概念や原理・法則の習熟により、物理化学反応として解釈することで、生命機能を理解することを目標とする。化学平衡、電気現象、反応速度論、生化学過程を、熱力学・統計熱力学の観点から定量的に学び、物理的現象と化学変化の本質的な考察力を深める。具体的な生命現象を題材に取ることにより、生命現象の本質的な理解を進める。基礎的な学問の習得により、科学技術の発展と利用、例えば生命理工学や臨床といった分野においても、応用力を発揮できる考察力を涵養する。
1) 化学平衡を理解し、生命反応がなぜ起こるのかを熱力学・統計熱力学的に説明できる。
2) イオンと電子の輸送に関わる電気現象を定量的に理解し、溶液系・膜を介す輸送・電池・生体エネルギー論について説明できる。
3) 反応速度論を理解し、速度式を構築することができる。
4) 速度式を用いて生命反応機構と反応ダイナミクスを議論できる。
5) 複雑な生化学過程として、酵素反応およびその阻害を物理化学により説明できる。
6) 生命現象の素過程として、拡散現象・イオンの移動と膜を介した輸送・電子移動を物理化学により説明できる。
統計熱力学、化学平衡、輸送、反応速度論、反応ダイナミクス、酵素反応、阻害、拡散現象、膜輸送、電子移動
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
教科書「アトキンス生命科学のための物理化学」に即して、入門的に詳細な解説を講義で行います。随時、テキストにある問題を演習的に各自で解いて理解を深めます。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 化学平衡:平衡定数、吸熱の起源、共同的結合、標準反応ギブズエネルギー(德永 万喜洋) | 平衡定数の意義の確認。化学反応における標準反応ギブスエネルギーの導出。 |
第2回 | 化学平衡:触媒・温度と平衡移動、生体エネルギー論における共役反応(德永 万喜洋) | ファントホッフの式の理解。グルコースの酸化と共役したATP産生の確認。 |
第3回 | 化学平衡:プロトン移動平衡;酸・塩基(德永 万喜洋) | プロトン移動平衡の理解。弱酸、弱塩基溶液のpHの算出。 |
第4回 | 化学平衡:プロトン移動平衡;多プロトン酸・両プロトン性・緩衝液(德永 万喜洋) | 多プロトン酸溶液中の化学種組成の算出。緩衝液のpH安定性の理解。 |
第5回 | イオンと電子の輸送の熱力学:生体膜(蒲池 利章) | デバイヒュッケルの法則と電解質溶液の活量の説明。教科書184ページから191ページの理解。 |
第6回 | イオンと電子の輸送の熱力学:レドックス反応(蒲池 利章) | ネルンストの式を理解する。教科書192ページから204ページの理解。 |
第7回 | イオンと電子の輸送の熱力学:標準電位(蒲池 利章) | 電位とギブズエネルギーの関係の理解。教科書205ページから210ページの理解。 |
第8回 | イオンと電子の輸送の熱力学:生体エネルギー論における電子移動(蒲池 利章) | 電子伝達系と光合成の酸化還元反応のエネルギーを理解。教科書210ページから215ページの理解。 |
第9回 | 反応速度:定義、速度式と速度定数、次数(林 宣宏) | 反応速度論の理解。 |
第10回 | 反応速度:速度式の求め方、温度依存性(アレニウスの式)(林 宣宏) | 生命現象を反応速度式で表現出来ること、反応が温度に依存することの理論的解釈。 |
第11回 | 速度式の解釈:反応機構の理解(林 宣宏) | 速度式を用いて反応機構を理解できること。 |
第12回 | 速度式の解釈:反応ダイナミクス(林 宣宏) | 速度定数の値を決めている諸因子は何かを理解する。 |
第13回 | 生化学過程の物理化学による理解:酵素反応(德永 万喜洋) | ミカエリス-メンテン機構の理解。阻害反応の確認。 |
第14回 | 生化学過程の物理化学による理解:生体膜輸送(林 宣宏) | 液体中の分子やイオンの動きを支配している法則の理解。 |
第15回 | 生化学過程の物理化学による理解:電子移動、拡散方程式(蒲池 利章) | マーカス理論の理解と拡散方程式の導出。教科書302ページから310ページの理解。 |
アトキンス生命科学のための物理化学 第2版、Atkins他、東京化学同人、2014年
“アトキンス物理化学(上) (下) 第8版” Atkins他,東京化学同人,2009年;"アトキンス 物理化学問題の解き方 (学生版) (第8版) 英語版” Atkins他,東京化学同人,2009年 ; “細胞の物理生物学” Phillips他,共立出版,2011年; “バイオサイエンスのための物理化学 第5版” Ignacio他,東京化学同人,2015年.
期末テストを行い、基本的な事項に関する問い、本質的な理解を問う記述問題、定量的な理解を問う計算問題とにより評価する。適宜小テストを行う。小テスト・期末テスト:100%。
履修条件は特に設けないが、物理化学第一を履修していることが望ましい。