本講義では高分子固体の物性,特に力学物性を取り扱う.高分子固体構造の特徴について述べた後,力学的性質の総論を述べる.高分子の弾性の起源である鎖状分子1本の弾性とそのネットワークの弾性を熱力学に基づいて説明する.線形粘弾性について述べた後,固体高分子およびコンポジット材料の粘弾性の実験データを説明する.粘弾性緩和機構を説明する.
高分子の粘弾性は,高分子の構造と分子運動と相関しており,高分子科学の重要な分野である.固体高分子は無数に使われており,その力学的性質を理解することは,工業上,重要である.
本講義を履修することによって次の能力を習得する。
1)固体高分子の粘弾性を現象論と分子論(高分子構造)に基づいて説明できる.
2)線形粘弾性の現象論を力学モデルを用いて表現し,数学的に解析できる.
3)高分子複合材料の力学的性質の理論的な取扱いができる.
粘弾性 ゴム弾性 クリープ 応力緩和 コンポジット材料
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
受講者は課題を予習してから講義に臨む.各回の講義は,受講者による課題解答の発表を軸に,基礎的内容の解説から各課題の解決に到達する.講義内容の確実な理解と応用力を養うために,必要に応じて演習問題を付す.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 固体高分子の構造と力学的性質 | 結晶性高分子の構造を再考し,高分子固体の力学的性質を考える意味を認識する. |
第2回 | 応力とひずみ | 変形した物体の応力と歪みから一般化したフックの法則を導出する. |
第3回 | ゴム弾性 | 熱力学からゴムの張力,1本の高分子鎖の弾性率を求める.高伸長比下での理論値からのずれを考える. |
第4回 | 線形粘弾性(1) | 粘弾性の現象論を数学と力学モデルを用いて表現する. |
第5回 | 線形粘弾性(2) | 動的ひずみを印加したときの弾性率とコンプライアンスを求める. |
第6回 | 線形粘弾性(3) | 粘弾性挙動の温度/周波数依存性を考察し,温度―時間換算則,Williams-Landel-Ferry(WLF)の式を導出する. |
第7回 | 高分子複合材料の力学的性質 | 高分子複合材料および結晶性高分子の力学的性質を解析する. |
第8回 | 緩和挙動に影響する因子/まとめ | 化学構造や結晶化度,分子量,配向が固体高分子の緩和挙動に与える影響を検討する. |
高分子学会編,基礎高分子科学,東京化学同人,2006
I.M. Ward, J. Sweemey, Mechanical Properties of Solid Polymers (3rd Ed.) Wiley, 2013 ISBN978-1-444-31950-7
P.C. Hiemenz, T.P. Lodge, Polymer Chemistry (2nd Ed.), CRC Press, 2007 ISBN1-57444-779-3
授業への参加度,期末試験または課題による。
高分子物理化学概論を履修,望ましくは,高分子物理第三(レオロジー)を履修,または同等の知識があること.