本講義では,移動速度論の中で,特に材料工学と密接な関係にある,固体内拡散及び運動量と熱の流れについて解説する。固体内拡散については,物質内での荷電粒子の流れを扱い,その記述方法,応用例を学ぶ。一方,運動量と熱の流れについては,まず運動量流束とエネルギー流束(熱伝導・対流・輻射)を物質流束と対比させながら概説する。運動量の流れについては,ニュートンの粘性の式、ナビエ・ストークスの式を解説し,層流・定常状態における流束分布や壁に作用するせん断応力の計算手法の基礎を提供する。また,レイノルズ数等無次元数について,及び粘度と物質の構造との関係について解説する。伝導伝熱について,フーリエの熱伝導の式,伝熱係数、熱伝導度と物質の構造との関係について解説する。輻射伝熱では,固体表面からの熱放射,黒体,放射率等について説明し,空間を隔てた2つの固体表面間の熱移動についての計算手法の基礎を提供する。
高温材料やプロセスの研究・開発を進める上で平衡論と速度論はその基礎となる重要な学問である。本講義では速度論に焦点をあて,単純な濃度拡散より複雑な,荷電粒子やエネルギーの流れを理解することをねらいとしている。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1)物質、運動量、エネルギー流束の類似性が理解できる。
2)イオン性結晶における点欠陥を表記できる。
3)点欠陥の活量依存を計算できる。
4)高温電気化学デバイスの原理を理解できる。
5)層流における流束分布が計算できる。
6)伝導伝熱による固体内の温度分布が計算できる。
7)輻射熱流束が計算できる。
イオン輸送,物質流束,運動量流束,エネルギー流束,定常,非定常,粘度,熱伝導度,伝熱係数,放射率
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
毎回の講義の前半で,復習を兼ねて前回の演習問題の解答を解説します。講義の後半で,その日の教授内容に関する演習問題に取り組んでもらいます。各回の学習目標をよく読み,課題を予習・復習で行って下さい。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 荷電粒子の輸送式 | Fickの法則のポテンシャル表記 |
第2回 | イオン性結晶における点欠陥 | 点欠陥の表記方法 |
第3回 | 点欠陥の活量依存性 | Kröger-Vink図の作成 |
第4回 | 荷電粒子による導電率 | 導電率の測定方法 |
第5回 | 部分導電率 | 部分導電率の測定方法 |
第6回 | 濃淡電池の原理 | 濃淡電池の起電力 |
第7回 | 荷電粒子の移動を利用した高温電気化学デバイスとしての応用例 | 高温酸化皮膜形成の原理と理解 |
第8回 | 流束の定義:物質流束・運動量流束・熱流束の類似性、層流と乱流、定常と非定常 | 物質流束の計算方法 |
第9回 | ニュートンの粘性の式:運動量流束と運動量保存則 | 運動量保存則より速度分布の計算方法 |
第10回 | ナビエ・ストークスの式とその無次元化:レイノルズ数と摩擦係数、次元解析、Buckinghamのπ定理 | レイノルズ数と摩擦係数を用いた平均流束の計算 |
第11回 | 粘度の測定方法:スラグ融体の構造と粘度 | 円筒回転法の原理の理解 |
第12回 | フーリエの熱伝導の式:熱流束、金属・セラミックス・多相構造・スラグ融体の熱伝導度 | エネルギー収支式より温度分布の計算方法 |
第13回 | 見かけの熱移動:対流、伝熱係数 | 対流と熱伝導による伝熱による温度分布の計算方法 |
第14回 | 輻射伝熱:固体表面からの熱放射、黒体、放射率 | 空間を隔てた2つの表面間の熱移動の計算方法 |
第15回 | 理解度確認総合演習:第1回から第14回までの要点を演習形式により確認 | 第1回から第14回までの理解度確認と到達度自己評価 |
講義資料を配布する
R. Byron Bird, Warren E. Stewart and Edwin N. Lightfoot, 『Transport Phenomena』 John Wiley&Sons, Inc., ISBN: 0-471-41077-2
R. A. Swalin, 『Thermodynamics of Solids』, John Wiley & Sons, Inc., New York
水田進,脇原將孝(編),『固体電気化学[実験法入門]』,講談社,(2001)
物質内での荷電粒子の流れの扱い方,動量流束・エネルギー流束の考え方。計算法及びそれらの応用について,その理解度を評価。
配点は,中間試験・期末試験(70%),演習(30%)
化学反応動力学(MAT.M203),金属物理化学(MAT.M302)を履修していること,または同等の知識があること。