形状記憶合金,鉄鋼,圧電体などにおける低対称相の組織(microstructure)は,しばしば特徴的なパターンを呈する.本講義はこういった無拡散変態によって生じる材料組織の運動学的理論について講述する.理論の基礎は非線形固体力学である.まず必要最低限な基礎数学を概説し,理論の要となる運動学的適合条件について学ぶ.それらを踏まえて,無拡散変態組織の理論解析手法について実例も交えて学び,観察データを解析するために必要な事柄を身に着けてもらうことが本講義のねらいである.
運動学的適合条件を用いて,無拡散変態組織を特徴づける幾何学的・結晶学的諸量を理論的に計算する手法を身に着け,さらにそれを用いて実験データを解析したり,材料設計に応用する方法を実例を通じて理解する.
マルテンサイト,形状記憶合金,鉄鋼,フェロイック材料,キンク変形, 幾何学的非線形性
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
必要最低限な数学的,材料学的事項を含めて講義をすすめる.重要な定理や命題については証明方法まで述べる.理解を深めるために簡単な小テストを数回行う.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | イントロダクション | マルテンサイト変態組織について述べ本講義の目的を述べる |
第2回 | ベクトルと行列および座標変換 | ベクトル,行列,座標変換について概説する |
第3回 | 固有値問題 | 行列の固有値,固有ベクトル,対角化について講述する |
第4回 | 極分解定理 | 正則行列を回転行列と対称行列の積に分解する方法について講述する |
第5回 | 三次元における物体の変形: I | 基準状態と変形状態,変形勾配,変位勾配を講述する |
第6回 | 三次元における物体の変形:II | 線素,面素,体積要素の変形,各種ひずみテンソルについて講述する |
第7回 | 運動学的適合条件 | 変形勾配の連続性に基づき,運動学的適合条件について詳しく述べる |
第8回 | マルテンサイト変態の結晶学的基礎 | ブラべ格子,格子対応,格子変形,バリアントついて述べる |
第9回 | 双晶と双晶方程式 | 双晶と双晶方程式 |
第10回 | 母相・マルテンサイト相界面 | 母相・マルテンサイト相界面の運動学的適合条件 |
第11回 | 自己調整組織 | 晶癖面バリアント同士が運動学的適合条件を保って結合した組織の満たすべき条件について述べる |
第12回 | 古典論との対応関係 | 古典的理論である,マルテンサイト変態結晶学の現象論との対応関係について講述する |
第13回 | 相変態組織での実例 | 形状記憶合金と鉄鋼材料のマルテンサイト組織の解析例について述べる |
第14回 | 変形組織への応用例 | キンク変形への応用例について述べる |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する 予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
K. Bhattacharya, "Microstructure of martensite", Oxford University Press
講義資料は毎回配布する
講義中に出す小テスト(50%),レポート(50%)によって成績評価する.
学部において線形代数,結晶学,相変態に関する基礎を学んだ経験のある人を対象とする.行列を用いた数値計算を行えるソフトウェアを入手しておくことを推奨する.
inamura.t.aa[at]m.titech.ac.jp