熱力学の考え方は、材料系エネルギーコースや材料コースで開講される多くの講義の基礎を成すとともに,研究を進める上でも非常に重要です。熱力学第二法則は熱機関の最大効率を規定します。また、ギブズエネルギー変化からは,電池反応で取り出せる最大仕事量を予測することができます。さらに、どのような条件下では反応が進行し、どのような条件下で系は平衡に達するのかを予測することも可能です。ギブズの相律は熱的平衡、機械的平衡および化学的平衡を達成するために、どの示強変数をどのように設定すべきかという検討に必須の概念です。講義は、以下に示すように、熱力学の第一~第三法則の復習から始め、ギブズの相律や活量といった概念の理解をより深めます。このために、講義では演習を多く取り入れます。
本講義は,化学反応をともなう高温プロセスの熱力学に関するものである。熱力学第一~第三法則を基礎としているため、まずこれらの復習を行い、エンタルピー、熱容量、エントロピー、ギブズエネルギーをはじめとする熱力学関数について解説する。特に反応の標準エンタルピー変化、標準エントロピー変化、標準ギブズエネルギー変化の計算方法に注力する。続いて、化学ポテンシャルを導入し、ギブズの相律を導出する。また、ギブズの相律を状態図や化学反応を含む系に適用して、系を平衡させるためにはどのような示強変数を実験的に固定する必要があるかといった問題についての考え方を解説する。さらに活量の概念を導入する。気体成分の活量および凝縮相成分の活量の標準状態と活量の定義について解説し、凝縮相成分に関しては、ラウール基準、ヘンリー基準、1mass%ヘンリー基準といった3種類の活量を扱う。最後に、相互作用係数についても解説する。以上を総合して、様々な化学反応をともなう系についての化学平衡計算手法の基礎を提供する。
熱力学は、エネルギーコースや材料コースの多くの講義の基礎を成すとともに,高温材料やプロセスの研究・開発を進める上でも重要な分野である。第二法則は熱機関の最大効率を規定し、ギブズエネルギー変化からは,化学電池反応から取り出せる最大仕事量が予測できる。さらに、ある反応が進行する条件、反応が平衡する条件を予測することもできる。熱力学的に「起こらない」と判定される反応は決して起こらない。熱力学の考え方を自分の研究にも適用してみてほしい。また、エンタルピー、ギブズエネルギー、活量などの使い方だけではなく、なぜこのような概念が創出されたのかといった背景も理解してほしい。
【到達目標】 本講義を履修することにより、本講義に続く「高温物理化学-製精錬プロセス」や「高温物理化学-金属の高温酸化」を理解するための基礎を習得することを到達目標とします。本講義では、化学熱力学の基礎を復習するとともに、ギブズの相律や活量の概念を多相・多成分から成る系にも適用できることを目標とします。
【テーマ】 本講義では,熱力学第一~第三法則の復習から始め、化学熱力学の中心的関数であるギブズエネルギー、化学ポテンシャルおよび活量など、また中心的概念であるギブズの相律の考え方をより深く理解し,これらの知識を高温プロセスや高温材料の研究・開発などで応用するための基礎を築くことを目的とします。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1)熱力学第一・第二・第三法則について説明でき、内部エネルギーとエンタルピーを正しく使い分けできる。
2)ギブズエネルギー変化の意味を第二法則と関連させて説明できる。
3)熱容量などを用いて、反応のエンタルピー変化、エントロピー変化、ギブスエネルギー変化の計算ができる。
4)化学ポテンシャルの意味を理解し、ギブズの相律を導くことができる。
5)ギブズの相律を用いて自由度の計算ができ、相平衡・化学平衡を得るために指定すべき示強変数を特定できる。
6)活量の概念を説明でき、その平衡定数との関係、平衡定数と標準ギブズエネルギー変化との関係を説明できる。
7)ラウール、ヘンリー、1mass%ヘンリー基準の活量の違いを理解し、これらを用いた化学平衡の計算ができる。
熱力学第一・第二・第三法則、内部エネルギー、エンタルピー、熱容量、エントロピー、ギブズエネルギー、化学ポテンシャル、相平衡、化学平衡、ギブズの相律、自由度、活量、標準状態、平衡定数、ラウール基準、ヘンリー基準、1mass%ヘンリー基準、相互作用係数
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
✔ 科学哲学としてだけではなく、工学上で使える道具として熱力学を理解する。 |
毎回の講義の前半で,復習を兼ねて前回の演習問題の解答を解説します。講義の後半で,その日の教授内容に関する多くの演習問題に取り組んでもらいます。各回の学習目標をよく読み,課題を予習・復習で行って下さい。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 熱力学第一法則とエンタルピー -内部エネルギー変化とエンタルピー変化の違い | 反応のエンタルピー変化の計算 |
第2回 | 第二・第三法則とギブズエネルギー -第二法則を根拠としたギブズエネルギーの定義 | 反応のエントロピー変化およびギブズエネルギー変化、熱力学関数の計算 |
第3回 | 化学ポテンシャルと相律 -成分、相および自由度の考え方 | 相率の状態図と化学反応を含む系への適用 |
第4回 | 活量の概念 -気体および凝縮相の成分の活量と平衡定数 | 気相と純粋な固相のみから成る系に関する平衡計算 |
第5回 | 溶液 -ラウール基準とヘンリー基準の活量および標準状態間の化学ポテンシャル差 | 蒸気圧測定からの二元系溶液の成分活量の決定、液相を含む系についての化学平衡計算 |
第6回 | 希薄溶液 -1mass%ヘンリー基準の活量、ラウール基準の標準状態との化学ポテンシャル差 | 一種類の微量溶質を含む溶液についての化学平衡計算 |
第7回 | 相互作用係数 -複数の微量溶質を含む場合の活量係数の表し方 | 複数の微量溶質を含む溶液についての化学平衡計算 |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
講義資料を配布する。
日本金属学会 『金属物理化学』丸善, ISBN: 4-88903-011-5
Gaskell 『Introduction to the Thermodynamics of Materials』Taylor&Francis, ISBN-13: 978-1-5916-9043-6
熱力学の各法則、各熱力学関数、化学ポテンシャル、ギブズの相律、活量および標準状態の考え方,計算法及びそれらの応用について,その理解度を評価 配点は,中間試験・期末試験(70%),演習(30%)
材料熱力学(MAT.A203.R)を履修していること,または同等の知識があること。
なお,本講義は,留学生および金属物理化学(MAT.M302)を履修していない学生を対象とする。
susa.m.aa[at]m.titech.ac.jp
メールで事前予約すること。