本講義では,放射線治療をその物理的側面から理解することを目的とする。放射線治療において最も重要な物理量である吸収線量をキーワードとして,その患者体内での分布を決定する相互作用の機序に始まり,吸収線量をはじめとする放射線計測量単位の体系、放射線治療における人体内での線量分布計算手法,線量と臨床効果の対応,吸収線量の測定手法を扱う。臨床の場での実例を交えながら,治療用放射線の物理的挙動に対する理解と,それを実際の治療に応用する手法を提供する。更に,強度変調放射線治療や粒子線治療など最新の放射線治療の手法についても系統的に紹介する。
医学と物理学は一見かけ離れた存在のようにも思われるかもしれないが,近年の科学技術の発達により、放射線治療も大きな発展を遂げている中,その適切で安全な運用や問題解決,また更なる高度化のために,これらを担える高度な物理の専門性を有した医学物理士を確立・拡充することが強く求められている。この講義で取り扱う内容は物理的な知識をいかに医療の現場に適用していくか,そのケーススタディと捉えることもできよう。その手法はがん治療以外の医療全般にも幅広く適用することができることから,物理・工学と医学とを繋ぐ最も有効な科目ともいえる。講義を通じて基礎科学の知識を実際の問題に応用し,解決する醍醐味を味わってほしい。
本講義を履修することによって次の能力を修得する。
1)吸収線量とは何か,放射線と物質との相互作用を踏まえて説明できる
2)放射線の種類と物質中の吸収線量分布との関係を説明できる
3)放射線の種類に応じた吸収線量の測定手法を説明できる
4)人体に入射した放射線の挙動を計算し、線量分布を求める手法を説明できる
5)投与された吸収線量から生物/治療効果を推定することができる
6)現在行われている放射線治療様式を説明できる
吸収線量、放射線治療、生物効果、粒子線治療、放射線計測
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
講師作成のPowerpoint資料を中心に用いて講義を行います。講義の後半で,その日の教授内容に関する演習問題に取り組んでもらいます。各回の学習目標をよく読み,課題を予習・復習で行って下さい。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | X線、γ線、荷電粒子線と物質の相互作用、X線の発生と線質 (河野) | 各種放射線と物質の相互作用における物理素過程の理解 |
第2回 | 粒子線治療計画概論 (兼松) | ビーム、照射装置のモデル化、体内線量分布計算法および評価法の理解 |
第3回 | 光子線治療 (大野) | 装置や原理、X線治療の実際、線量計算の基礎の理解 |
第4回 | 電子線治療 (大野) | 電子線治療の適応例(X線との違い)、線量測定・計算の基礎の理解 |
第5回 | 定位放射線治療・IMRT (水野) | 高精度放射線治療の実際・最適化アルゴリズムの理解 |
第6回 | 小線源治療 (水野) | 小線源治療の実際・線量計算アルゴリズムの理解 |
第7回 | 線量の体系 (松藤) | 線量関連単位のコンセプト、適用可能な放射線の理解 |
第8回 | 吸収線量の測定手法 (松藤) | 放射線の種類、エネルギー、得たい物理量に応じた計測技術の理解 |
第9回 | 吸収線量と臨床効果の考え方 (松藤) | 組織に与えられる線量から生物・臨床効果を定量的に予測する手法の理解 |
第10回 | 粒子線治療概論 (松藤) | 粒子線治療の様式と特徴の理解 |
指定しない。
各回の講義資料を配布します。
参考書:『Introduction to Radiological Physics and Radiation Dosimetry』,F. H. Attix, A Wiley-Interscience Publication, NY, ISBN 0-471-01146-0
毎回の講義の中で,その日の教授内容に関する演習問題に取り組んでもらい、その理解度から成績を評価します。
履修の条件を設けない。