現代工学の基礎となる量子力学を扱う。ミクロの世界では電子のような粒子が波として振る舞うことを説明し、物質の波動性を数学的に記述するシュレーディンガー方程式を導く。波動関数の性質・量子化の手続き・不確定性原理などを議論し、シュレーディンガー方程式を解いて量子井戸における束縛状態やポテンシャル障壁におけるトンネル効果を調べる。次に、調和振動子と中心力場を扱い、状態ベクトルや角運動量などの量子力学特有の概念や数学を導入する。水素原子の構造を解明し、多電子系の電子配置を説明する。また、シュレーディンガー方程式を近似的に解く方法として摂動論を扱う。
半導体などを扱う物質工学では、電子やホールなどの振る舞いを量子力学を用いて解析することが必要となる。また、量子コンピューターをはじめとする量子情報処理でも量子力学の知識は必須である。一方、初学者にとって量子力学は難解と言われる。本講義では、量子力学の効率的なマスターのためにポイントを押さえた解説を行い、演習問題を豊富にこなして運用力を身につけ、各分野へ応用する礎を築く。
本講義を履修することによって以下の事項を習得する。
(1) 量子力学のもたらした革新的な自然観
(2) 確率波・状態ベクトル・不確定性原理・トンネル効果・スピンといった量子力学の特徴的な概念
(3) 井戸型ポテンシャル・調和振動子・中心力場に関するシュレーディンガー方程式の解法
(4) 行列や固有値などの線形代数で学んだ知識および特殊関数の活用力
(5) 角運動量代数の手法と水素原子の描像
(6) シュレーディンガー方程式を厳密に解くことができない問題に対する近似解法
シュレーディンガー方程式、量子井戸、トンネル効果、調和振動子、中心力場、摂動論
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
各回の授業計画に該当する教科書の項目と例題を予習して講義に臨むこと。講義では、基本事項の解説に続いて「解く!」の演習問題に取り組む。講義の後、復習として演習問題を解く。学習すべき事項が多く、講義の進行も早いので、予習・復習は欠かさないこと。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | プランクの量子仮説,アインシュタインの光量子と光電効果 | 古典力学が破綻し、量子力学が必要となる過程を学ぶ。 |
第2回 | 波動と粒子の二重性 | ド・ブロイの物質波の概念を学ぶ。 |
第3回 | 波束と波動関数,シュレーディンガー方程式 | 確率波の概念を学び、シュレーディンガー方程式を導く。 |
第4回 | 物理量と演算子,ハイゼンベルグの不確定性原理 | オブザーバブルとエルミート演算子の関係および期待値の求め方を学び、不確定性関係を導く。 |
第5回 | 固有値と固有関数,自由粒子 | 時間を含まないシュレーディンガー方程式からエネルギー固有状態および運動量固有状態を導く。 |
第6回 | 無限に深い井戸型ポテンシャル | 一次元井戸型ポテンシャル問題を解く。完全系や基底などの固有関数の性質を学ぶ。 |
第7回 | 有限の深さの井戸型ポテンシャル | グラフを用いてエネルギー固有値を調べる。また、系の対称性に関するパリティの概念を学ぶ。 |
第8回 | 理解度確認テスト | 第1回から第7回までの理解度を確認する。 |
第9回 | トンネル効果 | ポテンシャル障壁のトンネリングと共鳴透過について学ぶ。 |
第10回 | 調和振動子 | 調和振動子のエネルギー固有値を求め、エルミート多項式を用いて固有関数を表す。また零点振動を導く。 |
第11回 | 生成・消滅演算子,状態ベクトル | 演算子を用いた調和振動子の代数的解法を学ぶ。また状態ベクトルの概念とケットおよび行列を用いた表記法を学ぶ。 |
第12回 | 中心力場 | シュレーディンガー方程式の球座標表示を導き、角運動量演算子と球面調和関数について学ぶ。 |
第13回 | 水素原子 | 方向量子化の概念を学び、ラゲールの多項式を用いて水素原子の固有関数を表す。 |
第14回 | スピンとパウリの排他原理 | 交換関係と昇降演算子を用いてスピン角運動量を導く。また同種粒子系の扱い方を学ぶ。 |
第15回 | 摂動論 | 近似的にシュレーディンガー方程式を解くための摂動論を学ぶ。 |
伊藤治彦「理工系のための解く!量子力学」(電子書籍版)講談社サイエンティフィク
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「ファインマン物理学V 量子力学」岩波書店 ISBN4-00-007715-5 C3042
読んで面白い碩学による希有な講義録
量子力学特有の概念やシュレーディンガー方程式の解法に関する理解度を評価する。
配点は、中間試験・期末試験を8割、演習を2割とする。
微分積分学・線形代数・力学を学習していること。