本講義では,ロバスト制御理論の基礎とその解析,設計のための重要な概念を導入する。特にノミナル安定性,ノミナル性能,ロバスト性,不確かさ,ロバスト安定性,ループ整形,H∞制御,ロバスト性能に重点を置きながら学習する.さらに,Robust Control Toolbox(MATLAB)を利用して設計技術を提供し,ロバスト制御に関するより実践的な知識を習得する.
ロバスト制御理論の応用は,航空宇宙システム,化学プロセス,電力ネットワーク,流体の制御など様々な分野に渡って行われている.この講義では,システムのロバスト性,不確かさとH∞制御に重点をおいて授業展開する.いかなるシステムの動的モデルも必ず何らかの物理現象を無視することになり,よって実際のシステムを含んだモデル集合を記述することはできない.そこで設計手法はこの溝を小さくするものでなければならない.この講義で重点を置くH∞制御は,フィードバック系のH∞ノルムを最小にすることで制御対象の変動や不確かさに対する感度を低減させることができる.1970年代から1990年代にかけてロバスト制御はシステム理論で最も盛んに研究されていた分野であることから,システム理論の主流となる理論を習得してもらう.
本講義を履修することによって次の能力を修得する.
1)ロバスト制御への動機を説明できる
2)ノミナル安定性とノミナル性能を導出できる
3)システムのロバスト性と不確かさを説明できる
4)ロバスト安定性とループ整形を説明できる
5)H∞制御の基本的知識を持ち,これを用いてフィードバック制御系を設計することができる
6)ロバスト性能の概念を説明できる
ロバスト性,不確かさ,ノミナル安定性,ノミナル性能,ロバスト安定性,ループ整形,H∞制御,ロバスト性能
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
各授業においてロバスト制御の基本的な考え方を効果的な例題を用いて導入します.授業内容をより理解してもらうために,関連した問題を宿題として出題します.授業前までに予習を行い,授業内容を常に確認するようにしてください.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 多変数フィードバック制御系,ノミナル安定性 - 多入力多出力システム,内部安定性,Q-パラメトリゼ―ジョン | 多入力多出力システムの特性とノミナル安定性を説明 |
第2回 | ノミナル性能 - 多変数周波数応答解析,感度関数,感度最小化問題,性能重み | フィードバック制御系の性能と感度最小化問題の関係を説明 |
第3回 | ロバスト性 - 安定余裕,モデリング,重み関数 | モデルに内在する不確かさを理解し,不確かさの表現方法を説明 |
第4回 | 不確かさ,ロバスト安定性 - モデル集合,構造的不確かさ,スモールゲイン定理,ロバスト安定化 | 不確かさを含むシステムの表現方法とロバスト安定性を導出 |
第5回 | ループ整形,混合感度,設計制約 - 混合感度問題,開ループ伝達関数,不安定零,不安定極 | ループ整形の基本的な考え方と混合感度問題について説明し,システムに内在する設計制約について理解 |
第6回 | H∞制御 - 一般化プラント,H∞制御問題,DGKF | H∞制御問題に対する解法の流れを理解し,基本的概念の説明 |
第7回 | 設計例題 - H∞制御によるフィードバック制御系の設計 | H∞制御に関する知識をもとに,Robust Control Toolboxを用いて制御系を設計 |
第8回 | ロバスト性能,発展的内容 - 構造的不確かさ,μ解析 | ロバスト性能を理解し,ロバスト制御理論の発展的内容の基本概念を説明 |
[SP05]S. Skogestad and I. Postlethwaite. Multivariable Feedback Control: Analysis and Design, Second Edition. Wiley; ISBN: 978-0-470-01167-6.
[ZD97] K. Zhou and J. C. Doyle. Essentials of Robust Control. Prentice Hall; ISBN: 0-13-525833-2.
[DP05] G.E. Dullerud and F. Paganini. A Course in Robust Control Theory: A Convex Approach, Text in Applied Mathematics. Springer; ISBN: 978-1-4757-3290-0.
[M15] Robust Control Toolbox User's Guide R2015b. MathWorks.
不確かさを含むシステムの解析と設計及びそれらの応用について,その理解度を評価
配点は,第1回課題(50%),第2回課題(50%)
フィードバック制御(SCE.C.202),線形システム制御論(SCE.C.301)を履修していること,または同等の知識があること.
講義HP: http://www.fl.ctrl.titech.ac.jp/course/ROC/index.html