2023年度 神経科学   Advanced Neuroscience

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開講元
生命理工学コース
担当教員名
一瀬 宏  鈴木 崇之  宮下 英三  赤間 啓之  野々村 恵子 
授業形態
講義    (ライブ型)
メディア利用科目
曜日・時限(講義室)
月1-2  木1-2  
クラス
-
科目コード
LST.A410
単位数
2
開講年度
2023年度
開講クォーター
4Q
シラバス更新日
2023年10月3日
講義資料更新日
-
使用言語
英語
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講義の概要とねらい

高次神経機能の基盤となる脳の発生や軸索伸長、神経回路形成のメカニズムを学習する。次に、知覚について、感覚神経や受容体の特徴および感覚器官と脳における情報処理について学習する。さらに、運動が脳内情報処理システムによりどのように制御されているか、不随意運動と随意運動に分けて解説する。また、ヒトに特徴的な言語を司る脳部位について知るとともに、非侵襲的脳機能イメージングの手法について解説する。最後に、脳の機能不全により起こる神経精神疾患の病態を紹介し、発症メカニズムについて最新の知見を含めて講義する。
低年次の授業で行う「基礎神経科学」の発展形として、同じく「カンデル神経科学」という教科書をもとに、より高度な脳の正常機能とその破綻を概説する。前半部では、神経分化・神経回路形成の分野において、この20年で次々と遺伝子が発見され、タンパク質の相互作用によって発生における神経細胞の挙動が明らかになってきたことを理解する。種の違いを超えた共通原理の理解をめざす。視覚・聴覚・触覚を含む知覚は、生体が外界についての情報を得るための主要なシステムである。各感覚における特定の刺激の検出を担う受容体の分子特性と感覚器官や脳における情報の伝達/処理について、それらの解明をもたらした研究を含めて理解する。運動制御の分野では、眼球や歩行運動など身近な行動制御を例に感覚入力と運動出力の間に介在するフィードバックメカニズムなどを理解する。言語の分野では、言葉を話すという誰でもなじみのある行動を通して、その行動の奥底に潜んでいる脳神経系の複雑な演算処理の一端を理解することを目指す。fMRIという最先端のテクノロジーで何が出来るのかということを理解する。ここまでは、脳が正常に働いた場合にフォーカスしてきたが、最後の部分では、脳の機能が異常となった場合に、どのような病気になり、どのような症状を引き起こすのかを理解する。このことによって、今社会的に問題となっている神経疾患の単純ではない発症機序をより正確に理解し、その解決に向けた糸口を探す。

到達目標

神経科学は近年飛躍的な進歩を遂げており、高次神経機能や精神神経疾患の理解も進んでいる。本授業では、基礎神経科学の授業で培った神経科学の基礎を基にして、より複雑な高次神経機能や脳の発生発達過程の分子メカニズムについて学習する。さらに、脳を理解することは我々自身の意識や意志決定の基盤を理解することであり、一般社会にも大きく貢献する可能性のある学問であることを理解する。具体的には、(1)神経発生、回路形成、神経接続の形成・収れん、中枢神経系の再生(2)知覚の分子/神経基盤(受容体による刺激の検出、感覚器官と脳における情報の伝達と処理)(3)脊髄反射、眼球運動、歩行運動、姿勢制御、随意運動などの運動機能とその制御(4)言語機能と獲得、fMRIによる脳内イメジング手法(5)統合失調症、気分障害、神経変性疾患などの神経疾患の理解について、広範な知識の獲得と、将来神経関連の課題にぶつかった時の索引的な引出しを準備しておくことを目的としている。

キーワード

脳、神経系、神経回路形成、シナプス可塑性、中枢神経の再生、感覚神経、受容体、視覚、聴覚、皮膚触覚/痛覚、嗅覚、味覚、脊髄反射、眼球運動、歩行運動、姿勢制御、随意運動、不随意運動、言語中枢、神経疾患、学習と記憶、精神障害

学生が身につける力(ディグリー・ポリシー)

専門力 教養力 コミュニケーション力 展開力(探究力又は設定力) 展開力(実践力又は解決力)

授業の進め方

Zoomを用いてライブ型授業を実施する。毎回の講義序盤で前回のまとめを行い、今回の要点を問題形式で示す。講義の終盤で序盤で示した要点を教示するとともに、必要に応じて質問・議論を行う。各回の学習目標をよく読み、予習・復習を行うこと。

授業計画・課題

  授業計画 課題
第1回 運動制御1- 運動の構成と脊髄反射 運動における入力、出力、フィードバックの関係性を構成要素として理解する。また、脊髄反射の神経メカニズムを理解する。(カンデル神経科学第33、35章参照)
第2回 運動制御2- 歩行運動と姿勢制御 歩行運動を司る中枢パターン発生器や姿勢制御のメカニズムを複数の感覚モダリティからの情報統合という視点から理解する。(カンデル神経科学第36、41章参照)
第3回 運動制御3- 随意運動 適応的な随意運動のを神経メカニズムを理解する。(カンデル神経科学第37、38章参照)
第4回 知覚の成立1-感覚ニューロンと受容体の性質、触覚と痛覚 生体は外界の情報をどのようにして検出するのか? 感覚ニューロンと受容体の特性と触覚・痛覚の分子機構を理解する。(カンデル 17,18,19,20章 6th)
第5回 知覚の成立2-視覚 網膜における光の受容のメカニズムと脳における視覚情報の処理について理解する。(カンデル 21,22,23,24,25章, 6th)
第6回 知覚の成立3-聴覚・嗅覚・味覚 聴覚、嗅覚、味覚における刺激受容の分子メカニズムについて理解する。(カンデル 26,27,28, 29章, 6th)
第7回 パーキンソン病と神経変性疾患の発症機序 パーキンソン病の病態と家族性パーキンソン病の発症機序、さらに、神経変性疾患共通の発症機構の仮説について理解する。
第8回 認知症とアルツハイマー病、遺伝性アルツハイマー病の発症機序 認知症の病態とアルツハイマー病の病理学的変化、遺伝性アルツハイマー病の発症機序について理解する。
第9回 気分障がい、統合失調症、広汎性発達障がいなどの病態と薬の作用機序。グループ毎に各自が調べてきた内容をプレゼンテーション形式で発表する。 気分障がい、統合失調症、広汎性発達障がいなどの病態を理解すると共に、治療に用いられている薬剤の作用機序を理解する
第10回 神経発生と行動の発現1- 神経系のパターン形成と神経細胞の分化 種々の多様な神経細胞に分化していく過程を具体的なタンパク質とその制御レベルの違いを例を挙げながら説明できる。核転写から非対称分裂、細胞間コミュニケーションから細胞運命の獲得の系譜を説明できる。(カンデル神経科学第52,53章参照)
第11回 神経発生と行動の発現2- 軸索の伸長とシナプス形成 神経細胞からどのような手がかりを頼りに軸索は伸びていき、到達したと認識し、シナプスを形成するのか、具体的なタンパク質を例示しながら説明できる。(カンデル神経科学第54,55章参照)
第12回 神経発生と行動の発現3- シナプス結合の精緻化 発達過程でシナプスは洗練化され、神経活性依存的な競合や刈込が起こる。その現象の背後にあるメカニズムを分子の言葉で説明できる。(カンデル神経科学第56章参照)
第13回 言語と脳1- 言語中枢と分散処理 言語の基本要素としての複数の機能レベルを理解し、言語処理に関わる複数の脳領域、特に言語野とされるブローカ野とウェルニッケ野の構造と機能について理解する。(カンデル神経科学第60章参照)
第14回 言語と脳2- 言語の獲得と喪失 幼児の脳がどのように言語を獲得するか、言語獲得の普遍的なパターンを理解する。また、人の脳はどのように複数の言語を習得するか、脳の障害により、失語症はどのようにして発生するかを理解する。(カンデル神経科学第60章参照)

授業時間外学修(予習・復習等)

学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。

教科書

特になし

参考書、講義資料等

-Eric R. Kandel et al., カンデル神経科学 (Principles of Neural Science), 日本語版監修 金澤一郎, 宮下保司, メディカル・サイエンス・インターナショナル
-ベアー, コノーズ, パラディーソ著 「神経科学―脳の探求」西村書店
Liqun Luo著, スタンフォード神経生物学, 監訳 柚﨑通介, メディカル・サイエンス・インターナショナル

成績評価の基準及び方法

各担当教員毎の小テスト、または、レポート課題。

関連する科目

  • LAH.T309 : 言語学C
  • LST.A346 : 基礎神経科学
  • HCB.M461 : 脳の計測
  • LST.A243 : 発生生物学
  • LST.A406 : 分子発生・進化学

履修の条件(知識・技能・履修済科目等)

基礎神経科学(LST.A346)を履修していること、または同等の知識があること。

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