無機化学とは、周期律表の元素全部を対象とする極めて幅広い学問分野である。本講義では、原子や分子の電子構造に着目して、各元素とその化合物の性質と特徴(化学結合、物性、反応性など)の違いを論理的かつ包括的に理解することを目指す。はじめに、元素の性質を決定付ける原子の中の電子の振る舞いについて解説し、イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度などのパラメータを周期律表に基づいて整理する。結合論では、原子価結合法、VSEPR則に基づいた共有結合の表現方法を解説する。さらに、共有結合の表現方法として分子軌道法の基礎を、単純な二原子分子系を例にして解説する。無機固体のテーマでは、固体の結晶構造、バンド理論、熱力学を扱う。酸塩基では、基本的な定義の習得から始めて、酸強度の支配因子を電子配置と分子軌道の観点から解説する。
本講義の狙いは、無機化学の基礎知識を身につけることで、後続科目においてより高度な専門教育を受けるための礎を築くことである。「なぜそうなるのか?」を常に意識して、必要な知識・考え方の取得に努めることで、幅広い化学の分野の理解に役立つ強固な基礎力を身につけることができる。
本講義では、以下の(1)〜(3)を到達目標とする。
(1) 周期律表に基づき、元素やイオンの性質を理解し、説明できるようになること
(2) 化学種同士の反応性、化合物の安定性を説明できるようになること
(3) 様々な物質を構成する化学結合を説明できるようになること
物質科学、結合論、物性論、固体化学、酸塩基
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
1つのテーマにつき2〜3回を基本に進める。講義内容の理解度を深めるため、毎回の授業において小テスト(演習)を実施するとともに、講義内容に関する簡単な復習問題を宿題として課す。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 無機化学とは | 本講義で学ぶべき内容、目的を説明できるようになる。 |
第2回 | 原子の中の電子の振る舞い(量子数、軌道、動径分布) | 原子の構造、各量子数と軌道の関係を説明できるようになる。 |
第3回 | 原子の中の電子の振る舞い(遮蔽と貫入、電子配置、パウリの排他原理、フントの規則) | 遮蔽と貫入の考え方に基づき、軌道とエネルギーの関係を説明し、第4周期程度までの元素の電子配置が書けるようになる。 |
第4回 | 元素の性質と周期律(周期律表、イオン化エネルギー、電子親和力) | 軌道とエネルギーの関係に基づき、周期律表におけるイオン化エネルギーと電子親和力の変化を説明できるようになる。 |
第5回 | 元素の性質と周期律(電気陰性度、原子半径、イオン半径) | 軌道とエネルギーの関係に基づき、周期律表における電気陰性度と原子(イオン)半径の変化を説明できるようになる。 |
第6回 | 共有結合と分子の構造(ルイス構造、オクテット則、共鳴、酸化数と原子価) | 共有結合性分子のルイス構造をオクテット則に基づき描き、その酸化数を決定できるようになる。 |
第7回 | 共有結合と分子の構造(構造と結合特性) | 電子配置と電気陰性度に基づき、pブロック元素の結合特性を説明できるようになる。 |
第8回 | 共有結合と分子の構造(原子価結合法、VSEPR則) | 原子価結合法とVSEPR則に基づき、共有結合性分子の構造を記述できるようになる。 |
第9回 | 分子軌道法の基礎(結合性分子軌道と反結合性分子軌道) | 等核二原子分子を例として、分子軌道法の基本的な考え方を説明できるようになる。 |
第10回 | 分子軌道法の基礎(二原子分子の分子軌道、結合次数) | 二原子分子の分子軌道エネルギーダイヤグラムを描くことができ、結合次数と結合距離、結合エンタルピーを説明できるようになる。 |
第11回 | 無機固体とその結合(固体の分類、バンド理論、金属結合、イオン結合、結晶構造) | 電気伝導度に基づき、固体を3つのカテゴリに分類し、そのバンド構造を描けるようになる。イオン性固体の結晶構造を決める因子を説明できるようになる。 |
第12回 | 無機固体とその結合(格子欠陥、格子エンタルピー、ボルン・ハーバーサイクル) | 固体の格子欠陥の成因を熱力学に基づき説明できるようになる。格子エンタルピーの概念を説明でき、ボルン・ハーバーサイクルを用いてそれを算出できるようになる。 |
第13回 | 酸塩基(酸塩基の定義、ブレンステッド酸) | 酸塩基の定義を3つ挙げ、それぞれを説明できるようになる。多塩基酸やハロゲン化水素などを例として、ブレンステッド酸強度の支配因子を説明できるようになる。 |
第14回 | 酸塩基(超強酸、水平化効果、酸性酸化物と塩基性酸化物) | 超強酸とは何か、及びその酸強度の定量的評価法を説明できるようになる。結合特性に基づき、酸化物の酸塩基性の周期的な変化を説明できるようになる。 |
第15回 | 酸塩基(ルイス酸、HSAB理論、固体酸) | ルイス酸塩基における硬さ・軟らかさの概念を説明し、その反応性を説明できるようになる。 |
シュライバーアトキンス無機化学(上)第6版(東京化学同人)
三吉克彦, はじめて学ぶ大学の無機化学(化学同人)
その他、必要に応じて配布資料をOCW-iで配布する。
下記、(1)と(2)を80:20の割合で評価し、最終成績とする。
(1) 期末試験の結果
(2) 講義中に行う小テストの内容及び復習用課題の提出状況
履修の条件は特に指定しないが、1年次化学基礎科目(無機化学基礎、量子化学基礎、有機化学基礎、化学熱力学基礎)を履修していることが望ましい。