本講義は、化学現象を微視的根本原理に基づいて理解する学問である量子化学の基礎を習得することを目的としている。
具体的には以下の4点に関して、順序立てて講義を進める。
1)量子力学の基礎原理を学習し、波動関数の意味と性質を理解する。
2)粒子の1次元・2次元・3次元運動について、量子力学的取扱いに習熟する。
3)前項までの基礎知識をもとにして、原子内での電子の運動を理解する。
4)量子力学における近似法を利用することにより、分子の電子状態や結合性について量子論的描像を得る。
本講義を履修することによって、以下の2つの能力を習得する。
1)量子力学の基礎原理を理解し、基本的な問題に対して適切に応用すること。
2)量子力学の知識をもとにして、原子・分子の運動状態や分子の結合性について基礎的理解を得ること。
波動関数、量子数、電子状態、分子軌道、化学結合性
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
講義の途中で、適宜、その日の教授内容に関する演習問題に取り組んでもらう。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 前期量子論と波動方程式 | プランクの光量子仮説ならびにド・ブロイの物質波仮説を説明できる。 ボーア条件を用いて水素原子のエネルギー準位を計算できる。 |
第2回 | 量子力学の基礎原理 | 固有関数と固有値とは何か、説明できる。 エルミート演算子の固有値が実数であることを証明できる。 観測量の平均値の表式を示すことができる。 |
第3回 | 1次元粒子の運動 | 1次元箱の中の粒子について、固有値と固有関数を求めることができる。 さらに、位置と運動量の期待値を計算できる。 |
第4回 | 調和振動子 | 調和振動子の固有値に対する表式を示すことができる。 さらに、波動関数の概形を示すことができる。 |
第5回 | 回転運動と角運動量 | 角運動量演算子の固有値を示すことができる。 球面調和関数の概形を示すことができる。 |
第6回 | 水素原子内での電子の運動 | 水素原子の状態を示す量子数について説明できる。 さらに、動径方向の波動関数の概形を示すことができる。 |
第7回 | 多電子原子 | パウリの排他律を説明することができる。 多電子原子と水素原子のエネルギーの差異について説明できる。 第1~4周期までの原子について、電子配置を示すことができる。 |
第8回 | 量子力学における近似法1:変分法 | 変分原理とは何かを説明できる。 リッツの変分法を用いて、エネルギーを計算することができる。 |
第9回 | 量子力学における近似法2:摂動法 | 2次摂動によるエネルギー補正項を示すことができる。 1次の摂動法による波動関数を示すことができる。 |
第10回 | 水素分子イオン | LCAO近似とは何かを説明できる。 クーロン積分、共鳴積分とは何か説明できる。 |
第11回 | 水素分子と分子軌道 | 水素分子の2つの分子軌道の概形をしめすことができる。 1重項・3重項とは何かを説明できる。 |
第12回 | 2原子分子の電子状態 | 第2周期の元素からなる等核2原子分子の電子配置を示すことができる。 異核2原子分子の双極子モーメントの傾向性について説明できる。 |
第13回 | 多原子分子の電子状態 | XH2分子(Xは第2周期の元素)の電子配置を示すことができる。 光電子スペクトルと分子軌道の関係性を説明できる。 |
第14回 | 混成軌道と化学結合 | sp, sp2, sp3混成軌道を、構成する元素の原子軌道を用いて示すことができる。 ヒュッケル近似を用いて芳香族性を説明することができる。 |
第15回 | 化学反応性 | 不飽和炭化水素の重合反応における分子軌道の対称性の重要性を説明できる。 置換基効果による分子軌道の変形を予想できる。 |
特になし
マッカーリ・サイモン著、物理化学(上)、東京化学同人
大野公一著、化学入門コース 量子化学、岩波書店
量子力学の基礎原理、および、その原子・分子系への応用に関する理解度によって評価する。
成績評価は、試験と、講義で出題する課題へのレポートによる。評価基準は、レポート50%、期末試験50%。
特になし。