本講義では、原子や分子の電子状態、分子の化学結合について、量子力学を用いた解説を行う。特に,角運動量の量子力学的取り扱いについて理解するために、角運動量の状態を表す波動関数、角運動量を計算するために必要な角運動量演算子や昇降演算子について、説明する。電子状態の角運動量状態まで含めた精密な理解を深めるために、ここまで学んだ量子力学の知識、特に摂動法に基づいた記述の仕方について論じる。講義の後半では、原子や分子のエネルギー吸収や放出について、時間依存の摂動法やボルン・オッペンハイマー近似などをもとに解説する。水素原子や有機ラジカル、芳香族分子やケトン類のような具体的な例について、説明する。
講義のねらいは、化学物質の諸現象を解明する、あるいは利用する際に、原子や分子の角運動量に視点をおいて取り組む能力を身につけることである。関連する科目である量子化学基礎や量子化学序論で学んだエネルギーの扱いと合わせ、原子や分子の電子状態を正確に理解することを目指す。このような知識をもとに、分子の光吸収や放出、エネルギー緩和などの例に対して、現象の理解の仕方を学び、知識活用の実践力を身につける。
本講義を履修することで次の能力を修得する。
(1) 原子や分子の電子状態について、理解する。特に、電子軌道運動や電子スピンに基づく角運動量、
光吸収や放出を支配する原理、励起状態のエネルギー緩和について修得する。
(2) 原子や分子に対する量子力学の基本知識について修得する。
(3) 量子力学を用い、原子や分子のエネルギーや角運動量、緩和速度について計算する能力を身につける。
物理化学、量子力学、原子、分子、電子状態、角運動量
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
(1) 各回で初めに前回の簡単な復習を行う。
(2) 講義の後半で、その日の授業内容に関連した簡単な演習問題に取り組む。
(3) 授業計画の項目について、授業前に予習しておくこと。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 電子の角運動量1: 角運動量演算子と昇降演算子 | 角運動量を演算子により導出 |
第2回 | 電子の角運動量2: 軌道運動とスピンの角運動量 | 化学物質のもつ角運動量にはどのようなものがあるか説明 |
第3回 | 縮重系の摂動法 | 縮重系に対する摂動エネルギーを与える式を求める |
第4回 | 多電子原子の電子状態1: 原子の項記号 | 多電子原子の項記号を説明 |
第5回 | 多電子原子の電子状態2: Slater行列式 | 電子がn個の原子のSlater行列式を説明 |
第6回 | 多電子原子の電子状態3: 炭素原子の電子状態 | 基底電子配置の炭素原子の項記号を説明 |
第7回 | 多電子原子の電子状態4: Hund則 | タ電子原子のHund則を説明 |
第8回 | 二原子分子の電子状態と項記号 | 水素分子の基底状態の項記号を説明 |
第9回 | 電子スピン1: 原子分子の磁気モーメントとスピン軌道相互作用 | 磁気モーメントを生じる角運動量を2種類あげて説明 |
第10回 | 電子スピン2: 原子発光スペクトルとZeeman効果 | ナトリウムのD線へのZeeman効果を説明 |
第11回 | 原子分子の光吸収と発光1: 時間を含んだ摂動法 | 時間摂動論を用い、光吸収の遷移モーメントを説明 |
第12回 | 原子分子の光吸収と発光2: 水素原子や調和振動子の光遷移選択則 | 調和振動子の光遷移選択則を説明 |
第13回 | 原子分子の光吸収と発光3: 磁気共鳴 | 超微細構造について説明 |
第14回 | 電子励起状態の緩和過程1: 振電相互作用と内部変換 | 内部変換が起こることを振電相互作用で説明 |
第15回 | 電子励起状態の緩和過程2: スピン軌道相互作用と項間交差 | 項間交差が起こることをスピン軌道相互作用で説明 |
特になし。
講義資料を授業中に配布する。
参考書は、小尾・渋谷著「基礎量子化学」(化学同人) 、
アトキンス著「物理化学(上)(下)」(東京化学同人)、
アトキンス著「量子化学」(東京化学同人)、
(1) 量子力学を用いた原子や分子の諸性質の説明についての理解度、応用力を評価
(2) 配点は、期末試験(90%)、各授業での演習内容や質問などの授業態度(10%)
(3) 到達目標の 1) を50点、2)~3)を各25点で評価
特に無し。量子化学序論などの関連科目を履修していることが望ましい。
akawai[at]chem.titech.ac.jp, 03-5734-3847
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