本講義「光と物質III」では、固体/連続媒質中での光の伝搬/遷移、光と物質の相互作用について学んでいただきます。まず、通常の一様な連続媒質の光学的性質を説明し、次にそれと対比する形で、最先端の技術で実現されるナノスケールの人工構造を持つ媒質(ナノ構造)でその光学的性質がどのように変わるかを紹介する形で授業を進めます。この授業を通して、物質の光学的性質が何で決まっていて、その性能が何で制限されているのか、ナノ構造を用いることにより、その限界がどのように克服できるのか、を学んでもらう予定です。
この講義の狙いは次の通りです。
(1)固体/連続媒質中の光の分散/伝搬速度、様々な光学定数、光学遷移レート、光非線形応答に関する基本的な導出を学び、これらの基本的な光学的性質がどこから導かれるのかを理解する。そして、それらの性質がどのような限界を持つかを学びます。
(2)様々な人工ナノ構造(フォトニック結晶、プラズモニクス、メタマテリアル)を用いることにより、通常の固体/連続媒質の光学的性質の限界をどのように克服できるかを学びます。
(3)物性や現象の物理限界を把握し、その限界を克服する手法について学びます。
本講義を受講することによって、次の項目に関する理解を得ることをも目標とします。
(1)固体/連続媒質中における光の分散、光学遷移、非線形応答がどのように生じるのか
(2)固体/連続媒質中における光の閉じ込めの強さ、伝搬速度、光学遷移レート、非線形性の限界がどこにあるのか
(3)周期構造、金属ナノ構造、微小電気回路要素によって、上記の通常物質の示す限界がどのように克服可能であるか
光学、光の分散、光学遷移、光非線形、ナノフォトニクス、フォトニック結晶、プラズモニクス、メタマテリアル、共振器量子電磁力学
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
毎回、講義ノートを配布し、主にスライドを用いて授業を進めます。毎回、出席をとります。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 物質中の光について ・物質中のMaxwell方程式 ・物質中の光の分散(Lorentzモデル)、誘電率/屈折率の導出 ・光の閉じ込めと伝搬速度の限界 | ・どこに近似が導入されているのか? ・光の閉じ込めの限界、光速の限界はどこにあるのか? |
第2回 | ・光のバンド構造とバンドギャップ(フォトニック結晶) ・周期構造を用いた光の閉じ込め ・周期構造を用いた周波数分散と空間分散(スローライトと負の屈折) | ・光のバンド理論とは? ・超小型光共振器を作るには? |
第3回 | 金属中の光 ・金属導線中の電磁波 ・金属中の光の分散(Drudeモデル) ・金属ナノ構造中の電磁波(プラズモニクス) | ・金属導線中の電気信号は光なのか? ・プラズモニクスによる光の閉じ込め限界の克服 |
第4回 | 電気回路と光 ・波長より小さな電気回路要素が生む光の分散(メタマテリアル) ・左手光学系が導く負の屈折 | ・人工的な透磁率/誘電率を作るには? ・電磁力学における右手系と左手系とは? |
第5回 | 物質中の光の結像 ・結像の古典限界(Rayleigh限界とSeidelの5収差) ・負の屈折による結像 ・変換光学(座標変換が導く奇妙な電磁力学による透明マント) | ・古典限界を超える結像、超解像、完全結像とは? |
第6回 | 物質中の光学遷移I (量子光学的な扱い) ・物質中の光学遷移レートの限界(量子論を用いた光学遷移の導出、) ・共振器電磁力学による遷移レートの増強 | ・なぜ光学遷移は遅いのか? ・強い光閉じ込めにより光学遷移をどこまで高速化できるか? |
第7回 | 物質中の光の非線形相互作用 ・物質の光非線形応答の起源とその限界 ・ナノ構造による非線形相互作用の増強 ・共振器電磁力学による非線形相互作用の増強 | ・なぜ物質の光非線形性は小さいのか? ・単一光子で非線形相互作用を起こせるか? |
第8回 | 物質中の光学遷移II (電気回路的な扱い) ・光学遷移レートの電気回路的理解(古典電磁力学による説明) ・光アンテナと超伝導電気回路における光学遷移(電気回路的増強の究極の姿) | ・量子性はどこにあるのか? ・光学周波数で動作するアンテナを作ることができるか? |
講義ノートを配布します
特になし
期末試験により評価します
特になし。