結晶物理学では,ステレオ投影など結晶学の基礎から始め、結晶の対称性を表す点群および空間群について対称要素の組み合わせから導く過程を説明する。3次元結晶が取り得る空間格子を示し、逆格子の概念を導入する。これらの知識を現実の金属や半導体などの現実の結晶構造を通して理解する。結晶の示すマクロな物理的性質はテンソル量であることを示し、テンソルの形が点群対称性から制限されることを学ぶ。結晶構造を研究するのに必要なX線や電子線の回折理論について運動学的近似の下で取り扱う。回折理論で現れるフーリエ変換の数学的な性質を述べ、結晶構造解析法に用いられるパターソン関数を使い、簡単な周期構造や乱れた構造からの散乱を取り扱う方法について説明する。
結晶構造や回折現象については、量子力学、固体物理学、化学物理学などの講義のみならず、物理学実験でも一部取り扱う。しかしそれを系統的に論じている授業はなく、本講義は色々な場面で学習した結晶や回折に関する断片的な知識を体系的に整理することを目的としている。
本講義を履修することにより、次の専門的スキルを身につける。
1) 物質の基本的構造が原子の周期的配列すなわち結晶であることを理解する。
2) 結晶の対称性と物質のマクロな物理的性質が密接に関係していることを体感する。
3) 結晶構造を調べる回折・顕微法とその原理について学ぶ。
結晶、格子、点群・空間群、対称性、電子回折、X線回折
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
各講義の2/3は基礎的内容について、残る1/3は発展的応用的内容についての解説に充てる。講義内容の確実な理 解と応用力を養うために、講義内容に関連した演習問題を適宜出題する。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | イントロダクション:結晶とは?(物質の3態、結晶、準結晶、液晶など) | 本講義の目的を理解し、結晶とは何かを他のものと比較しながら論じられるようになる。 |
第2回 | 結晶学の基礎ーステレオ投影、対称の要素、1・2・3次元結晶 | 物質の対称性を記述する方法を学び、結晶へ適用できるようになる。 |
第3回 | 点群(群の定義、回転対称操作、点群) | 群論を用いて対称性を記述できるようになる。 |
第4回 | 空間格子と逆格子 (結晶軸と格子面、逆格子、結晶系、ブラベー格子) | 並進対称性を持つ結晶の逆格子の概念が説明できるようになる。 |
第5回 | 空間群 (らせん軸と映進面、空間群の記号、International Tableの活用法) | 並進対称性と対称要素を組み合わせた空間群を理解し、International Tablesを使いこなせるようになる。 |
第6回 | 結晶構造1(金属、半導体、絶縁体の原子間結合の性質と構造、イオン半径 ) | 結晶構造を作る種々の化学結合を説明できるようになる。 |
第7回 | 結晶構造2(fcc,bcc,hcp格子をもつ構造、複雑な結晶構造(準結晶、変調構造)) | 実際の結晶構造および類似した構造について説明できるようになる。 |
第8回 | 結晶の対称性と物理的性質1(物理量のテンソル表現、点群操作変換則、ノイマン原理) | 結晶の物理的性質と対称性の関係の基礎事項を説明できるようになる。 |
第9回 | 結晶の対称性と物理的性質2(ベクトル量、2階テンソル、3階テンソル) | 結晶の物理的性質を対称性を用いて説明できるようになる。 |
第10回 | 原子散乱因子と結晶構造因子1(回折の運動学的理論、ブラッグ反射と逆格子) | 回折の基礎理論が説明できるようになる。 |
第11回 | 原子散乱因子と結晶構造因子2(結晶対称性と消滅則) | 結晶の対称性と回折スポットの関係を説明できるようになる。 |
第12回 | 物質構造へのフーリエ解析の応用(自己相関関数、乱れた構造、ゆらぎ、動的構造因子) | フーリエ変換が物質の構造解析に適用できるようになる。 |
第13回 | 結晶構造を見る1(各種回折法の原理と実際) | 各種回折法の原理を説明できるようになる。 |
第14回 | 結晶構造を見る2(プローブ顕微鏡の原理と実際) | 走査プローブ顕微鏡の原理を説明でき、実際にどのような実験データが得られるか説明できるようになる。 |
第15回 | 結晶構造を見る3(最先端の結晶構造解析手法) | 最先端の研究現場で用いられている構造解析手法を説明できるようになる。 |
今野豊彦:「物質の対称性と群論」, 共立出版
今野豊彦:「物質からの回折と結像」, 共立出版
必要に応じ講義開始時に資料を配付し、Power-pointを用いた解説を行う。講義で使用するPower-pointファイルは予習/復習に用いること。
中間試験(50%)、期末試験(50%)
量子力学、統計力学、固体物理学の知識があることを前提にする。