原子核は強い相互作用(核力)で結びついた陽子と中性子から成る有限量子多体系である。高密度で量子的性質を示す一方で、半古典的描像もあわせもつユニークな系である。原子核の構造の特徴、核力の性質、β崩壊等の基本について講義する。素粒子物理学との関連性、宇宙での元素合成や中性子星などの核物理の応用・展開にも触れる。最近進展している不安定核物理やハイパー核物理などの最先端の核物理についても紹介する。
この科目のねらいは、物質を構成する原子の中にあって基本的な役割を果たしている原子核の基礎について理解し、強い力としての核力の特徴を把握して殻構造などの原子核の特性を理解できるようになることである。量子力学の最初の応用例として原子核を学ぶこともねらいの1つである。
【到達目標】本講義を履修することにより原子核物理の基本を理解することを目標とする。
特に、量子多体系としての原子核構造、核力(強い相互作用)の性質、β崩壊(弱い相互作用)やγ崩壊(電磁相互作用)を理解する。さらに核物理が宇宙物理学や素粒子物理にどのように応用されているかなども学ぶ。
【テーマ】原子核の大局的特性、大きさと質量、核力と強い相互作用、殻構造、原子核の変形および集団運動、ベータ崩壊、ガンマ崩壊、不安定核、ハイパー核、クォーク物理、宇宙核物理をテーマとする。
原子核、結合エネルギー、α崩壊、β崩壊、γ崩壊、アイソスピン、核力、湯川中間子論、π中間子、湯川ポテンシャル、フェルミ気体模型、殻模型、魔法数
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
板書とスライドを併用しながら進める。関連する演習問題を出題し、講義中ないし宿題として解くことで理解をさらに深めてもらう。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 原子核の大局的特性 | 原子核の特徴を挙げて説明しなさい。 |
第2回 | 原子核の大きさ | 原子核と原子の大きさの比を述べなさい。 |
第3回 | 原子核の質量、結合エネルギー | 質量公式とそれに基づく結合エネルギーを説明しなさい。 |
第4回 | 原子核のフェルミ気体模型 | 原子核のフェルミ気体模型を説明しなさい。 |
第5回 | 殻構造 (1)平均場ポテンシャル | 平均場ポテンシャルの形状の特徴を述べよ。 |
第6回 | 殻構造 (2)魔法数、閉殻構造、一粒子軌道 | 魔法数が出現する理由を説明しなさい。 |
第7回 | 原子核物理の最前線 (1)不安定核物理、宇宙核物理 | 不安定核が元素合成にどのように寄与するかを説明しなさい。 |
第8回 | 原子核の崩壊(1)(ベータ崩壊) | ベータ崩壊の寿命と弱い相互作用の結合定数の関係を述べよ。 |
第9回 | 原子核の崩壊(2)(ベータ崩壊) | ベータ崩壊におけるパリティの破れを説明せよ。 |
第10回 | 核力と中間子(1) | 核力の到達距離と中間子の質量の関係を述べよ。 |
第11回 | 核力と中間子(2) | 重陽子のアイソスピンとスピンを説明せよ。 |
第12回 | ハドロンの分類と対称性 | ハドロンの特性を説明せよ |
第13回 | ストレンジネスとハイパー核 | クォークの量子数を説明せよ |
第14回 | クォーク模型 | クォーク模型に基づいて陽子の波動関数を記述せよ |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
教科書については授業中に説明する。
「原子核物理学」(八木浩輔著、朝倉書店)
「不安定核の物理」(中村隆司著、共立出版)
'Particles and Nuclei - an introduction to physical concepts', B. Povh et al., Springer Verlag,
出席、レポート、期末試験による
量子力学の基礎を修得していること。
毎回の授業の直後に質問を受ける。
第1回〜第4回および第12回〜第14回は藤岡が担当します。
第5回〜第11回は中村が担当します。