まず、量子力学で扱う基本的な現象である散乱について学ぶ。物理学による自然現象の定式化には様々な考え方、アプローチがある。そこで本講義では、同種粒子の非区別性に焦点を当てた第二量子化の手法を、また、運動の記述を、量子力学系から統計的混合状態に拡張する密度行列を用いる手法について学ぶ。
(1) 中心力による散乱は基本的に動径方向の1次元の問題であることを理解し、いくつかの近似法について説明できる。
(2) 場の量子化を理解し、生成・消滅演算子を用いた定式化ができる。
(3) 二準位系の時間発展はBlochベクトルの運動によって表されることが説明できる。
散乱、ボルン近似、位相のずれ、ボース粒子、フェルミ粒子第二量子化、密度行列
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
講義では基礎となる概念とその定式化における考え方に重点を置いて説明し、演習では実際の問題を解く力がつくように具体例に取り組む。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 光子と電子波、波動方程式 | 講義全体の内容を概説する。 |
第2回 | 対称性と座標変換、変数分離 | 系の対称性を考慮して座標系を選ぶと、往々にして多次元の問題を低次元系の問題に単純化できることを学ぶ。 |
第3回 | 散乱の量子論 | 散乱を、中心力場中の1粒子の定常状態として解く手法を学ぶ。 |
第4回 | 散乱の積分方程式とBorn近似 | 散乱の定常状態のシュレディンガー方程式から境界条件を考慮した積分方程式を導き、これを近似的に解くことを学ぶ。 |
第5回 | 部分波展開と位相のずれ | 散乱粒子の波動関数を球面調和関数で展開し、散乱前後での角運動量保存を利用することを学ぶ。 |
第6回 | Rutherford散乱 | クーロン相互作用は減衰が弱く遠距離まで及ぶため、特有の性質を持つことを学ぶ。 |
第7回 | 同種粒子 | 同種多粒子系に生成・消滅演算子を導入して状態を粒子数で表すことを学ぶ。 |
第8回 | 場の演算子 | 場の演算子を導入してハミルトニアンを書き換え、第二量子化することを学ぶ。 |
第9回 | 多電子系 | 多電子系における基本的な近似法であるHartree-Fock近似について学ぶ。 |
第10回 | 電磁場の量子化 | 輻射場の量子化について説明する。 |
第11回 | コヒーレント光 | コヒーレント状態と光子数の固有状態を対比させて、それぞれの特徴を説明する。 |
第12回 | 密度行列 | 密度行列を用いた統計的混合状態の記述を学ぶ。 |
第13回 | Liouville演算子 | 密度行列の時間変化はHamiltonianとの交換関係で決まる子をk学ぶ。 |
第14回 | Bloch方程式 | 二準位系の時間変化の方程式にBlochが導入した二種類の緩和過程について学ぶ。 |
第15回 | Rabi振動と断熱通過 | 光と強く相互作用する二準位系について、Rabi振動と断熱通過について学ぶ。 |
指定なし。
講義中に配布。
期末試験により評価。
量子力学入門、量子力学IIの履修を前提とする。
matsushita[at]phys.titech.ac.jp