化学物理学は、化学平衡や化学反応などの化学的事象を、物理学の対象として理解しようとするものである。平衡や反応を理解するためには開いた多成分系の振る舞いを知らなければならない。また、化学反応は物質中の電子が支配している。したがって本講義では開いた多成分系の熱・統計力学と物質中の電子の量子力学を中心に授業をすすめる。物理学の化学への応用を学ぶことで物理学を新しい分野に適用する力を身に着け、新たな学際領域を創り出す若い力の源となることをねらいとする。
原子核の反応を考えない限り、物質の性質や反応は、その構成要素として原子核と電子を考えれば説明できる。このとき、電子より何千倍も重い原子核が物質をかたどり、電子がそのまわりを飛び回って正電荷ばかりの原子核を繋ぎとめている。従って、原子・分子のスケールでの電子の運動が分かれば物質の性質が理解でき、さらには半導体の集積回路のように、物質の性質を制御できるようになる。量子力学の誕生とともに始まった20世紀はまさにこうしたことが実現した時代で、その結果、科学は実生活と切り離せないものとなった。
本講義を履修することにより、以下の知識と能力を習得する。
1) 分子間に働く分散力と分子内の化学結合の力を、量子力学に従う電子によって説明する。
2) 気相における衝突反応と液相における拡散反応を説明する。
化学平衡、化学反応、ヘモグロビン、酵素
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
化学平衡・化学反応の具体例は生体系からも採る。
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | 気体の状態方程式と内部エネルギー | 理想気体の圧力は気体分子の運動エネルギーの総和に比例する。 |
第2回 | 分子間に働く分散力 | 摂動論によるvan der Waals力の導出 |
第3回 | 結晶格子とエネルギーバンド | 格子の対称性が縮重を通して系の電子構造を支配する。 |
第4回 | H2+:1電子分子 | 水素分子イオンに見る化学結合の本質 |
第5回 | 電子スピン | 電子は3次元空間に加えてもう一つ自由度を持つ。 |
第6回 | 多電子系とパウリの排他原理 | フェルミ粒子とボース粒子 |
第7回 | 熱機関の効率とエントロピー | 効率が1を超えないことが何を意味するか? |
第8回 | 熱力学ポテンシャルと化学平衡 | ポテンシャルはどの状態変数を変数とみなすかに依存する。 |
第9回 | 水 (a) 水のpH と緩衝溶液 (b) 水素結合 | 地球を覆い、生命の舞台となっている液体について |
第10回 | ヘモグロビンによる酸素運搬 | 酸素結合能の鋭い酸素濃度依存性は4量体構造をとることによる共同現象である。 |
第11回 | 気相における化学反応の速度 | 衝突に基づく説明 |
第12回 | 活性複合体と反応速度 | 反応が系の平衡を大きく崩さない場合に成り立つ |
第13回 | 液相反応 | 液相における反応の速度は、おもに拡散律速なものと反応律速なものとに分類できる。 |
第14回 | 酵素 | 酵素の触媒機能 |
第15回 | レーザー | その原理と化学反応への応用 |
指定なし。
講義中に配布。
期末試験により評価。
特になし。