代数多様体Xに簡約線形代数群Gが作用する時,商位相空間X/Gは一般には代数多様体にはならない.一方で,Mumfordの幾何学的不変式論では,商空間の定義を適切に与えることにより,X/Gを代数多様体として定義することができる.本講義では,幾何学的不変式論の入門的事項について解説する.幾何学的不変式論はモジュライ空間の構成において重要な役割を果たすが,本講義ではモジュライ空間についてはごく簡単な例について言及するに留める.また,授業計画には軽微な変更が加わる可能性があることに注意されたい.
幾何学的不変式論の主要な構成について理解し,安定性という重要な概念を理解することが本講義の主な目標である.本講義と第2クォーターで開講する幾何学特論Fで,「Xの点が幾何学的不変式論の意味で準安定であることと,モーメント写像の零点であることが同値である」というKempf-Ness定理を証明することが最終目標であるが,本講義だけでも内容的には完結するようにする.
簡約線形代数群とその代数多様体への作用について理解し,代数幾何学における群作用の商空間の構成を幾何学的不変式論の方法で理解する.特に,安定性という重要な概念について理解する.安定性の判定条件であるHilbert-Mumford基準について理解し,簡単な例で安定性を判定できるようになる.
幾何学的不変式論,簡約線形代数群,安定性,Hilbert-Mumford基準
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | ✔ 展開力(実践力又は解決力) |
通常の講義形式.レポート課題を講義中に与える.
授業計画 | 課題 | |
---|---|---|
第1回 | 導入及び複素代数幾何学の基礎の復習 | 講義中に指示する. |
第2回 | 線形代数群及び簡約線形代数群 | 講義中に指示する. |
第3回 | アフィン多様体のGIT商 | 講義中に指示する. |
第4回 | 圏論的商 | 講義中に指示する. |
第5回 | 線形代数群の作用の線形化 | 講義中に指示する. |
第6回 | 安定性 | 講義中に指示する. |
第7回 | Hilbert-Mumford基準 | 講義中に指示する. |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
指定しないが,講義ノートを配布する予定である.
I. Dolgachev, Lectures on invariant theory. London Mathematical Society Lecture Note Series, 296. Cambridge University Press, Cambridge, 2003. xvi+220 pp. ISBN: 0-521-52548-9
D. Mumford, J. Fogarty, F. Kirwan, Geometric invariant theory. Third edition. Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete (2), 34. Springer-Verlag, Berlin, 1994. xiv+292 pp. ISBN: 3-540-56963-4
P. Newstead. Introduction to moduli problems and orbit spaces. Tata Institute of Fundamental Research Lectures on Mathematics and Physics, 51. Tata Institute of Fundamental Research, Bombay; by the Narosa Publishing House, New Delhi, 1978. vi+183 pp. ISBN: 0-387-08851-2
R. Thomas. Notes on GIT and symplectic reduction for bundles and varieties. Surveys in differential geometry. Vol. X, 221--273, Int. Press, Somerville, MA, 2006. (https://arxiv.org/abs/math/0512411 にて入手可)
レポートによる評価.
複素代数幾何学の基礎知識を前提とする.アフィン代数多様体,射影代数多様体,ザリスキ位相,豊富な線束,及び関連する可換環論の基礎事項にある程度慣れていることが望ましい.ただ,これらの前提知識についても授業中に可能な限り補足説明する予定である.特に,アフィン代数多様体と射影代数多様体(SpecとProj)については初回授業で簡単に復習する.
hashimoto[at]math.titech.ac.jp
設定しないが,授業後もしくはEメールで日時を決めた上で議論の時間を設けることは可能である.
特になし.