モーメント写像とは古典力学における角運動量を一般化した概念であり,シンプレクティック幾何学において重要な役割を果たす.本講義の前半ではモーメント写像を定義し,モーメント写像の零点集合を群作用で割ることによりシンプレクティック商という商空間を定義できることを解説する.後半では,「滑らかな射影多様体の点が幾何学的不変式論の意味で準安定であることと,モーメント写像の零点であることが同値である」というKempf-Ness定理について解説する.これは代数幾何的に定まる安定性とシンプレクティック幾何で定義されるモーメント写像との間に非自明な関係があることを示す重要な定理であり,この無限次元への拡張が近年活発に研究されている.時間が許せば,無限次元への拡張についても簡単にコメントする.また,授業計画には軽微な変更が加わる可能性があることに注意されたい.
本講義の前半ではシンプレクティック多様体,ハミルトンベクトル場,及びモーメント写像についての入門的事項を解説する.またモーメント写像を用いてシンプレクティック商を定義し,これが自然にシンプレクティック多様体となることを解説する.後半では,必要な理論を整備した後に,Kempf-Ness汎関数と呼ばれるエネルギー汎関数を調べることによってKempf-Ness定理を証明する.更に,良い状況下では幾何学的不変式論の意味での商空間とシンプレクティック商が位相同型になることを証明する.
シンプレクティック多様体及びハミルトンベクトル場についての基礎的事項について理解し,モーメント写像の定義と重要性を理解する.更に,簡単な例でこれらを具体的に計算できるようになる.理論及び簡単な例によって,シンプレクティック商の定義を理解する.最後に,Kempf-Ness汎関数の凸性がKempf-Ness定理の証明で鍵となることを理解する.
ハミルトンベクトル場,モーメント写像,シンプレクティック商,Kempf-Ness定理
✔ 専門力 | 教養力 | コミュニケーション力 | 展開力(探究力又は設定力) | 展開力(実践力又は解決力) |
通常の講義形式.レポート課題を講義中に与える.
授業計画 | 課題 | |
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第1回 | シンプレクティック多様体とハミルトンベクトル場 | 講義中に指示する. |
第2回 | モーメント写像 | 講義中に指示する. |
第3回 | シンプレクティック商 | 講義中に指示する. |
第4回 | ケーラー多様体入門 | 講義中に指示する. |
第5回 | 簡約リー群 | 講義中に指示する. |
第6回 | Kempf-Ness汎関数 | 講義中に指示する. |
第7回 | Kempf-Ness定理の証明 | 講義中に指示する. |
学修効果を上げるため,教科書や配布資料等の該当箇所を参照し,「毎授業」授業内容に関する予習と復習(課題含む)をそれぞれ概ね100分を目安に行うこと。
指定しないが,講義ノートを配布する予定である.
A. Cannas da Silva. Lectures on symplectic geometry. Lecture Notes in Mathematics, 1764. Springer-Verlag, Berlin, 2001. xii+217 pp. ISBN: 3-540-42195-5
S. Donaldson, P. Kronheimer. The geometry of four-manifolds. Oxford Mathematical Monographs. Oxford Science Publications. The Clarendon Press, Oxford University Press, New York, 1990. x+440 pp. ISBN: 0-19-853553-8
R. Thomas. Notes on GIT and symplectic reduction for bundles and varieties. Surveys in differential geometry. Vol. X, 221--273, Int. Press, Somerville, MA, 2006. (https://arxiv.org/abs/math/0512411 にて入手可)
レポートによる評価.
多様体論とリー群論(リー群とリー環の対応,指数写像など)についての基礎知識を前提とする.リーマン計量やベクトル束の線形接続についても理解していることが望ましいが,授業でも簡単に説明する予定であるので必須ではない.Kempf-Ness定理を扱う前に幾何学的不変式論の意味での安定性の定義を再度紹介するので,その定義を受け入れられれば幾何学特論Eを受講しなくても本講義は理解できると思われるが,幾何学的不変式論そのものについては本講義では解説しない.
hashimoto[at]math.titech.ac.jp
設定しないが,授業後もしくはEメールで日時を決めた上で議論の時間を設けることは可能である.
特になし.