講義概要

記号主義哲学（すなわち哲学としての記号論）からいえば、人間とは環境と相互作用しあう知覚=運動系に他ならない。人間の認知や行動はそれ自体〈記号過程〉（semiosis）として把握可能であり、人間のあらゆる営み（経済的、政治的、宗教的、儀礼的、藝術的など）は本来的に記号系の働きである。その上、近年の自然科学ないし生命科学は物質現象とりわけ生命現象が基本的に〈記号過程〉に基づくことを明らかにしつつある（例えば遺伝、免疫）。
多くの可能性を蔵した記号主義哲学を具体的に検討することを目指したい。

講義の目的

この講義の目的は、一方でシュールとパースの記号論的業績を批判的に踏まえつつ、しかもソシュール＝パース以降における顕著な記号論的達成の一端を明らかにすることである。それがグッドマンの世界制作論にほかならない。とりわけグッドマンの提唱する「記号の指示理論」を解明し、その成果を種々の記号現象に敷衍してみたい。
古典的な〈記号〉の定義によれば、「記号とは、それ以外のものを指示する（表す、代表する、指す、等）ところのものである。」それでは、指示機能とはどのようなものか、それにはいくとおりの形態があるのか、それぞれの形態を規定する構造要因は何なのか…本講義においては、これらの問いを解明し、さらにいくつかの具体的事例を考察することになるだろう。
本講義が、ひとり社会理工学や情報工学のみならず、〈記号〉や〈情報〉ないし<表現>が鍵概念となる広範な領域で学ぶ受講生に多少とも裨益することを期したい。

講義計画

本講義はネルソン・グッドマン（Nelson Goodman, 1906-1998）の業績を素材にして、基本文献の講読と受講者による議論を中心に運営される。あわせて、担当者による文献の解説と解釈を随時ほどこしてゆく。
取り上げられるトピックの例：　指示機能、ヴァージョン、世界制作、真理と正しさ、スタイル（様式）、実在性、主題、引用、藝術と科学、運動の知覚、事実、外延指示、例示、表出、多元主義、語りと示し、パラ言語、作品、等。

教科書・参考書等

テクスト：ネルソン・グッドマン『世界制作の方法』ちくま学芸文庫。受講者はこの本を購入しておくこと。その他の文献については、講義の進行にあわせて指示ないしコピーを配布する。

関連科目・履修の条件等

成績評価

その都度の課題遂行（出席点を含む）と期末の課題（形式については未定）を総合して判定する。

その他

連絡先：世界文明センター（内線3892）