技術者倫理とリスク管理   Risk control and ethics for technologists

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担当教員
中村 昌允 
使用教室
金11-12(CIC913)  
単位数
講義:2  演習:0  実験:0
講義コード
36046
シラバス更新日
2013年9月20日
講義資料更新日
2013年9月20日
学期
後期

講義概要

 「ものづくり」のためには、「価値の創造」、「価値の獲得」が求められるが、技術者が最も優先される責務は、科学技術のもたらす危害を防ぐことで、そのためには一人一人が技術者としての誇りを持ち、倫理観に則って行動する必要がある。加えて、企業が長期にわたって利潤極大化を図るには「リスクマネジメント」が必要である。
この講義では、具体的な事例を取り上げ、そこでの技術リスクと技術者の行動についての討論を通して、技術者倫理とリスク管理を学ぶ。

講義の目的

イノベーションのためには、「価値の創造」、「価値の獲得」が求められるが、技術者の最も優先される責務は、科学技術のもたらす危害を防ぐことで、そのためには一人一人が技術者としての誇りを持ち、倫理観に則って行動する必要がある。加えて、企業が長期にわたって利潤極大化を図るには「リスクマネジメント」が必要である。

この講義では、具体的な事例を取り上げ、そこでの技術リスクと技術者の行動についての討論を通して、技術者倫理とリスク管理を学ぶ。

講義計画

01.技術者倫理はなぜ必要か?(10月5日)
講義の狙いと進め方について紹介し、「古紙への再生紙混入率偽装」「小型化洗剤の事業化」の事例を基に「技術者が遭遇するジレンマ」、「専門職として社会から期待されていること」について考える。 
02.リスクマネジメントとは何か?(10月15日)
リスクマネジメントの要諦は、①リスク評価、②受け入れ可能の可否判断、③優先順序を付けて実施 である。 日本の安全に関する考え方は、「絶対安全」から「リスクベースの考え方」が必要になる。
03.研究開発とリスク(10月19日)
研究開発において最も重要なことは「テーマの選定」と「リーダーの役割」である。講師が経験した「メタノール蒸留塔の爆発事故」を紹介し、「どのようなリスクがあったか」、「その際の技術者の行動」、「リスクマネジメントのポイント」について考える。
04.事故から学ぶリスクマネジメント 生産におけるリスク-1 (10月26日)
「集団食中毒事件」 を取り上げ、リスクアセスメント、基準逸脱の標準化、さらに、消費者からの訴えに対する対応(危機管理)について考える。予防原則の考え方も紹介する。
05.事故から学ぶリスクマネジメント 生産におけるリスクー2 (11月2日)
「JCO臨界事故」を取り上げる。直接原因は社内マニュアルに違反した「作業提案」の実施であるが、背景には、①顧客からの要求仕様変更への対応、②改善活動のあり方並びに変更管理の問題がある。
06.事故から学ぶリスクマネジメント ヒューマンエラーとリスク (11月9日)
「JR西日本脱線事故」を取り上げる。直接原因は運転士のスピードの出し過ぎであるが、背景には、「設備変更時のリスクアセスメント」、「他の案件との優先度の評価」というリスクマネジメントの問題がある。
07.事故から学ぶリスクマネジメント 設備メンテナンス (11月16日)
「関電美浜原発配管破裂事故」を取り上げる。原因は当該個所の28年間の未点検であるが、問われたことは、①設備メンテナンスの在り方、②未点検であることを知った技術者・管理者の行動である。
08.事故から学ぶリスクマネジメント 説明責任-1 (11月30日)
「チャレンジャー号爆発事故」「シテイコープビルの強度補強工事」を取り上げ、技術者が、①どのようにすれば提案を実現できるか?②周囲からの了解を得るためには何が必要か?を考える。
09.事故から学ぶリスクマネジメント 説明責任-2 (12月7日)
「もんじゅのナトリウム漏洩事故」「柏崎原発事故」を取り上げ、技術者の説明責任とリスクコミュニケーションの在り方について考える。説明責任を果たすには情報開示とともに、お互いの信頼感が必要である。
10.製品安全と製造物責任 (12月14日)
「シュレッダー事故」、「ガス瞬間湯沸かし器事故」「食品不祥事」を事例に、製品安全と製造物責任、さらに消費者用製品安全法の改正の狙いを紹介し、これからの製品設計、安全管理について考える。
11.リスクベースの安全管理-1 (12月21日)
安全か危険かの二者択一ではなく、リスクが受け入れ可能かどうかを判断する必要がある。「リスク-ベネフィット」、「ALARPの原則」を紹介し、日本と欧米の「安全に関する考え方」の違いについて討論する。
12.リスクベースの安全管理-2 (1月14日)
安全対策の優先順位として「スリーステップ法」、リスクベースの設備管理方式として、RBI(リスクベースインスペクション)、RBI(リスクベースメンテナンス)の考え方を紹介する。
13.リスクコミュニケーション-1 (1月18日)
リスクコミュニケーションは、従来は企業や行政の意向をいかに住民に納得させるかの視点であったが、最近は「双方向での情報交換」、「リスク情報を共有して解決策を導き出す場」として考えられている。
14.リスクコミュニケーション-2 (1月25日)
日本とアメリカのリスクコミュニケーション事例を紹介し、日本と欧米とのリスクに対する考え方の違いを理解し、「これからの日本のリスクコミュニケーションのあり方」について、討議する。

教科書・参考書等

各回資料を配布、(一部は事前の予習のため講義に先立って前回に配布)  
参考資料  中村昌允「事故から学ぶ技術者倫理」(工業調査会)

関連科目・履修の条件等

特になし

成績評価

講義回数の7割以上(10回以上)出席者について、成績を評価する。
評価は、毎回の小レポートと期末レポートのよって評価する。

担当教員の一言

結局は、一人、ひとりの感性が重要である。 しかしリスクに対する感性を初めから持ち合わせている人はいない。
では、痛い目に遭うしかないか? それでは損害が大きすぎる。
そこで、講義では多くの事例を紹介する。受講される方は、それぞれの事例で、自分が当事者として問題を考え、
事例を「仮想体験」し、仮想体験とクラスでの討議を通して、判断・行動基準を創っていただきたい。
技術者が抱えるジレンマに対する解決策は、結局は、一人ひとりが自らの専門能力を高くして自立できる技術者になるとともに、技術者間の連帯を強めていくことである。

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